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宇多田ヒカル @ 横浜アリーナ 2010年12月8日(水)

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ライヴ&イベントレポ
公開
2010/12/13   10:33
更新
2010/12/13   10:33
テキスト
文/土屋恵介

 

宇多田ヒカル_5

98年12月9日のデビューから丸12年。数々の素晴らしい作品を提示することで日本の音楽シーンを彩り続け、年内で音楽活動の一時休止を発表した宇多田ヒカル。彼女がしばしの別れを告げる2デイズ・コンサート〈WILD LIFE〉を横浜アリーナで行った。その初日の模様をレポートしよう。

アリーナ中央に組まれたセットのスクリーンに、くま型宇宙船が隕石と衝突し地球に不時着する映像が流れる。くまのパイロットがヘルメットを脱ぐと宇多田の顔が映し出され、幕が落ちると360度円形ステージの真ん中に高くリフトアップされた彼女の姿があった。大歓声に包まれるなか、白を基調とした淡い色のふわふわしたドレスを着た彼女は、温かいメロディーのアップ・チューン“Goodbye Happiness”を歌いコンサートをスタートさせる。ステージへと下降した彼女は続けざまにハウス・ビートの“traveling”を披露。伸びやかなヴォーカルと生のストリングス、キーボード、プログラミングのマッチングがとてもいい。丸いステージを回りながら観客といっしょに歌う姿は、躍動感と共に穏やかなムードも放っていた。

観客と元気よく〈ボンジュール!〉と挨拶を交わし、パフォーマンスは進む。繊細さと力強さを併せ持つ“Prisoner Of Love”は、生のストリングスと感情を込めた歌が共鳴し、楽曲の力をより大きく伝えていく。揺れる心模様を歌う“COLORS”では、絶妙なグラデーションのライティングで楽曲の世界観をより広げるという演出も見せてくれた。

この日の円形ステージは、楽器と演奏者がいっしょにステージ下へ格納され、出番になると上昇するというすごい構造だった。ピアノがステージに登場すると、彼女が歌詞をつけたエディット・ピアフ“Hymne à l'amour(愛の讃歌)”のカヴァーをピアノをバックに独唱。切ないメロディーが胸を突く“SAKURAドロップス”では、彼女がピアノを弾き語り、やがてバックの演奏が曲に広がりを与えていく。

 

宇多田ヒカル_1

 

ストリングス勢が降下すると、今度はオレンジのワンピースにチェンジした彼女と共に、ギター、ベース、ドラムのバンド勢がステージに登場。 “Passion”や“Show Me Love (Not A Dream)”などを、音源以上にエモーショナルかつハードにプレイ。荒々しくヴィヴィッドな世界観もまた彼女のコンサートでの魅力だ。

そして、優しい旋律の響く“Stay Gold”をピアノで弾き語ったあと、〈何か疲れてきちゃったなー〉〈元気が出る歌をいっしょに歌って!〉というMCから、ハッピーな“ぼくはくま”を会場全体で大合唱。和やかなムードのなか、〈元気が出たぞ!〉と笑顔の彼女が歌ったのはデビュー曲の“Automatic”。ソウル・フレイヴァーの優しいミッドテンポにアレンジされたこの曲を聴くうちに、15歳でデビューしてから27歳の現在まで、人としてアーティストとして常に成長し続けた宇多田ヒカルという存在の大きさを改めて実感しグッときてしまった。ゆったりと力強く歌い上げる“First Love”の説得力も、当時とはまったく違う艶やかさを感じたほどだ。

 

宇多田ヒカル_2

 

気持ちを込めて歌うダンサブルな“Beautiful World”など、コンサート終盤に向かっていくほど、彼女のエナジーはさらに力強さを増していく。そして会場全体が白い光に包まれると同時に歌われたのは“光”。無数のハートが舞い落ちるなか、心に響く歌を届ける宇多田ヒカル。彼女の作る音楽は、間違いなく彼女の心から生まれた分身だ。だからこそ、多くの人の共感と感動を呼んだのだろう。

彼女の口から、〈久しぶりに大きな会場でやるからどうなるかなと思ったけど、みんなの愛を感じたよ。ありがとう!〉と発せられると、観客全員から鳴り止まない拍手が沸き起こる。涙をこらえるような表情を浮かべた彼女が最後の曲に選んだのは、〈この世には、愛する人はもちろんだけど、わかりあえない人とかいろんな人がいる。でも、日々感じる感情はいつ何どき、どこの人でもいっしょなんじゃないかなと思って書いた〉という“虹色バス”。明るく軽快なこの曲を観客と共にに歌い終え、大歓声のなかで本編が終了。

 

宇多田ヒカル_4

 

アンコールを求める拍手がやがて大きな1つのハンドクラップになり、黒のTシャツにGパンというリラックスしたスタイルで、アコースティック・ギターを抱えた彼女がステージに戻ってきた。

〈今日はジョン・レノンの命日ということで、今日のテーマを考えてこの曲をやろうと思いました〉というMCから披露されたのは、ビートルズ“Across The Universe”。彼女の弾き語りとストリングスを交えての演奏は優しさに満ちていた。このとき驚いたのは彼女のヴォーカルだ。これまでとはまったく違う、初めての――慈愛に満ちた歌声をここで聴くとは。それは、まだまだわれわれが知らない宇多田ヒカルの魅力が確実にあるんだと思えた瞬間でもあった。

 

宇多田ヒカル_4

 

そして、クリスマス・ソング“Can't Wait 'Til Christmas”を歌い終えたあと、彼女はステージの真ん中に立ち、〈私が最初に世に出した、98年12月9日のシングルで初心に返って最後を締めたいと思います〉と語り、“Automatic”と両A面だった“time will tell”をフル・バンドで披露。ライトなソウル感溢れるナンバーを、言葉を噛み締めステージを歩きながら観客に向かって歌い、最後はジャンプでフィニッシュ。〈笑顔で明日もがんばろうぜ!〉と彼女らしい言葉を残し、手を振りながらステージを一周し、花道をゆっくり歩く彼女。そして、お客さん全員に〈ありがとう〉の一礼をしてコンサートを終えた。

別れの寂しさがないといったらウソになるが、それ以上に前向きないい余韻を与えてくれる、心温まるコンサートという印象のほうが強い。しかも時間が経つほどにその思いが強まってくるのだから不思議なものだ。こういうステージに出会ったのは初めてかもしれない。いい経験を積んで、また音楽を届けてほしいと、いま、素直に思える。宇多田ヒカルさん、ひとまずお疲れさまでした。そして心を打つ音楽をまた届けに戻ってきてください。

 

宇多田ヒカル コンサート〈WILD LIFE〉 @ 横浜アリーナ 2010年12月8日(水) セットリスト

01. Goodbye Happiness
02. traveling
03. Take 5
04. Prisoner Of Love
05. COLORS
06. Letters
07. Hymne à l'amour
08. SAKURAドロップス

―Eclipes―

09. Passion
10. BLUE
11. Show Me Love (Not A Dream)
12. Stay Gold
13. ぼくはくま
14. Automatic
15. First Love
16. Flavor Of Life-Ballad version-
17. Beautiful World
18. 光
19. 虹色バス

―アンコール―

20. Across The Universe
21. Can't Wait 'Til Christmas
22. time will tell