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17年前と変わらないアシッド名店、ハードフロア

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2010/12/27   17:07
更新
2010/12/27   17:08
テキスト
文/石田靖博

 

長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!

 

ハ、ハードフロアの新作(慌てて封を開け、プレイヤーに入れる)! ……これ、昔のヤツじゃねーか! などという小芝居を打ちたくなるほど、3年ぶりのハードフロアの新作は変わってないんです! というより、93年の歴史的超ド級傑作『TB Resuscitation』から17年、ヤツらは変わってないのだ。

いや、正確に言えば、いま聴くと『TB Resuscitation』はBPM速めだなとか、94年のセカンド『Respect』はシカゴ・ハウスっぽい(ジャケ一面にシカゴ・ハウス~テクノの偉人たちの名が羅列されている)なあとか、96年の3作目『Homerun』は地味に思われるけど、いちばんミニマルに接近していてテクノ警察的には好きだな~(なんせ、“Strikeout”のリミキサーに当時絶好調だったサージオンを起用している)とか思うところはあるけど、基本的にはハードフロアの代名詞的な名機=TB-303(ローランド社製ベースマシン)とTR-909(同じくドラムマシン)で作ったジワジワとアゲていく絶妙なアシッド音使いや、シャッフルが効いた絶品のビート、わかっていてもタマらん絶叫級のブレイクというお約束が満載の〈ハードフロア印〉のアシッド・ハウスにブレはないのだ。

というか、新作のタイトル『Two Guys Three Boxes』はライヴでのセットを表したものだし(メンバー2人にTB-303が3台)、曲名も“TB Or Not TB”やら“In Acid We Trust”といった居直りスタイル。しかも先行シングル“Silver Submarine”ではアシッド・ハウスの始祖、DJピエール(最近リリースした新曲のタイトルは“I Am Acid”! 流石!)をリミキサーに引っ張り出し、相変わらずのアシッド伝承をする始末。とはいえ、“You Know The Score”はプラスティックマン的な不穏アンビエント風味だとか、“In Acid We Trust”のベースラインが微妙に〈マヌケ美〉漂う歌心のあるものだったりとか……それなりの新試行はあるのだが、決して自分たちのやるべきことを見失ってはいない。これは、ハードフロアの2人――ラモン・ツェンカーとオリヴァー・ボンジオが、アシッド・ハウス(これラモン担当)+シカゴ・ハウス(オリヴァー担当)というハードフロア的サウンドが大好きであり、かつ世のテクノ紳士淑女もそんなハードフロア節を求めるという、幸せな共存関係がなせる奇跡であって、極論すればそこに変化や革新は必要ないのである。大げさに言えば、これぞ現在のもっとも理想的なミュージック・ビジネスの形態なのかも。

例えるなら、美味いラーメン屋にはラーメンを食いに行くのであって、決して居心地やスイーツを求めに行くわけではないのです! ラーメン屋は美味いラーメンを作ることだけに専念すべきなのであるのです! ……というわけで、ハードフロア亭のアシッド・ラーメン、17年経っても相変わらず美味かったよ(あれ、ラーメンの話?)。

 

PROFILE/石田靖博

クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラ ブ・ミュージックのバイイングを担当。このたびの引っ越し=異動によって、本当にある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→2010年ラスト回です! 今年1年、パトロールにお付き合いいただいた物好きな方々、感謝です。東京での初年越しは卓球・フミヤ・NOBUの恵比寿LIQUIDROOMか、デリックさんのAIRか……と、いろいろありますが、たぶん、さいたまスーパーアリーナの〈Dynamite!!〉に行きます。注目は〈川尻VSトムソン〉と、〈宇野VS宮田〉ですかね(興味ない人には暗号レヴェル)。