(C) HIDEO CANNO (CAPS)
12月2日の大阪公演を皮切りに、名古屋、横須賀と巡ったコンサート・ツアー〈捜索願い〉。9月にリリースされた最新アルバム『少年少女』がコンセプチュアルかつ物語的な流れで編まれた作品だっただけに、それをどう再現するのか興味津々のなか(開演直前のSEはローリング・ストーンズ“Sympathy For The Devil”だ)、千秋楽=東京公演のステージが幕を開けた。
ピンスポットに照らされてステージ上に浮かび上がった中村が、レスポールの弦をゆっくりとストロークさせると、オープニングの“人間失格”がスタート。緊張感と切実な詞世界が生む独特の空気感に会場が包まれると、エモーショナルなギター・カッティングで始まる“独白”が静寂を打ち破る。電話の受話器をマイクにし、ファンキーな演奏をバックにシアトリカルな言葉回しを畳みかける中村。続く“汚れた下着”ではオーディエンスが総立ちとなり、早くもテンションはMAXへ。
「今回は〈捜索願い〉というライヴです。みなさんも何かを捜し、何かを見つけて帰ってください」という最初のMCに続いて、『少年少女』の1曲目になっている“家出少女”。〈自分を信じて生きていきたい〉という少女の心情を力強く、熱のこもった歌唱で聴かせると、アルバム同様の流れで“ここは、風の街”。時折オーディエンスを煽るアクションも交えながら、感情をぶつけるように全身で歌うその姿はパワフルかつ圧倒的……かと思いきや、ステージは一転してピアノ、アコースティック・ギター、歌のみのシンプルな構成で聴かせる“働き者”“プラットホーム”とバラード・ナンバーを立て続ける。そして、ピアニカの哀愁感漂う調べをフィーチャーした“帰れる場所なんて、ない”の最後のフレーズ〈もう帰れる場所なんて、ない、ない♪〉を歌い切ったところで、中村がステージ袖へと足早に消えて、前半が終了。
(C) HIDEO CANNO (CAPS)
後半は、美しいハイトーンを聴かせるアカペラ・ナンバー“ふたたび”で静かに始まり、続いて“戦争を知らない僕らの戦争”。学校生活でのあらゆる理不尽に嘲笑するしかない主人公の、実は煮えたぎっている心象風景を表すかのように、ステージ背景に垂らされた深紅の幕が大きく揺れる、揺れる……。
「『少年少女』というアルバムを作るにあたって、青春時代を振り返りました」と切り出した2回目のMCを挿み、力強さのなかにも優しさをしっかりと染み込ませながら言葉を重ねていくバラード・ナンバー“ともだちになりたい”で胸がじ~ん……と熱くさせられたところで、ドラムと鍵盤がグルーヴィーに絡み合う“青春でした。”。オーディエンスといっしょに白いハンカチを振り回しながら会場のテンションを一気に上げると、タンバリン片手に熱唱するロック・チューン“駆け足の生き様 ”、ソウルフル歌謡“事勿れ主義”、さらにふたたびレスポールを掻き鳴らしながら歌い放つ“旅人だもの”で最高潮へ。オーディエンスの両手は、ずっと頭の上だ。
「アルバムを作って、ライヴをやってみて、私自身見つけたものがあります。それは、青春時代に手にした熱いものがいまの自分を作ってるんだ、他人に何と言われようと、味方がいないとしても、自分の過去が味方になる、と」。
そう語って締め括った本編のラストは、アルバム同様“不良少年”。コンセプチュアルなアルバムをステージで再現するということで、セットの流れはこれまでとは趣の異なるものになっていたのだが、言葉を強くハッキリと、情感豊かに伝えるという演者・中村 中の決してブレることのない信条が貫かれていたパフォーマンスは、アーティスト・中村 中のこれからに大きな期待を集めずにはいられなくなるほど圧巻、でした。
追伸。残業=アンコールでは“初恋”のほか3曲+おまけを披露。赤いマフラー、赤いチェックのスカート、赤いブーツでの出で立ちも、最高にキュートでしたよ。