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ロックンロールのすべてであり、始まりであるガレージ・バンド、ソニックス

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2011/02/09   18:01
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文/久保憲司

 

ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ 〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、初来日公演も決定したばかりのガレージ・シーンの重鎮、ソニックスのニュー・ アルバム『8』について。彼らはロックンロールのすべてであり、始まりでもあって――。

 

プライマル・スクリームの〈スクリーマデリカ・ツアー〉のプロモーションのためだと思うけど、UKの音楽新聞「NME」で〈歴史上もっともドラッギーなアルバム50枚〉という特集が組まれていた。だが、ソニックスが入っていないではないか。ガレージ・バンドの帝王、ソニック・ユースの〈ソニック〉とはもちろんソニックスにリスペクトを捧げたものであり、LCDサウンド・システムのジェームス・マーフィーがDJの最後にソニックスの曲をかけるのは、ソニックスがロックンロールのすべてであり、始まりだからである。神みたいなバンドなのである。

 

そんなソニックスが、われらがTHE BAWDIESと対バンするためになんと初来日し、新曲&ライヴのてんこ盛り盤『8』をリリースする。この新作がいいんですよ。ライヴは昔と変らない感じでやってくれていて涙します。新曲はちょっとギター・リフが前面に出ていて、キーボード、サックスは抑え気味な、70年代のデトロイトなアメリカン・ロックなんですけど。でもソニックスからそういう音楽が発展したことを考えれば、彼らがそういうことをするのは嬉しい。これこそ本当のアメリカン・ロックだと感動してしまうのです。

 

しかし、なんで「NME」はソニックスのことを忘れてしまっていたんでしょうね。新作にはライヴ・ヴァージョンが入っている名曲“Strychnine”では〈水より、酒より、ストリキニーネ(興奮剤)が好き〉なんて60年代に歌っていて、凄すぎるんですけど。ストリキーネって何なんでしょうね。昔の推理小説だとよく人殺しの道具として使われていたんですけど、そんなものをよく飲んでいたなと思います。でも、こうしたガレージ・ミュージックを過激にしたのはストリキーネという興奮剤だとすると飲んでみたくなりますね。

 

そして、のちのハード・ロックの悪魔的なイメージに繋がるような“The Witch”“Psycho”などのような曲も歌っているなんて、薬で頭が弱っていたとしか思えませんね。デビュー盤『Here Are The Sonics』なんかドラムの上にマイクを立てて、それだけを2トラックに録音したそうです。でもそれがカート・コバーンをして「最高のドラム・サウンドだ。俺が知っているなかでいちばん強いドラム・サウンドだ」と言わしめた。ジミー・ペイジもドラム・サウンドをソニックスのように録っていたそうだし。薬で頭がおかしくなっていたかもしれないけど、凄い人たちなのだ。日本に来たら、謎の多い当時のガレージ・シーンのことを訊きたいなと思う。