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第21回――ティン・パン・アレー

連載
その時 歴史は動いた
公開
2011/02/22   18:16
更新
2011/02/22   18:16
ソース
bounce 328号 (2010年12月25日発行)
テキスト
文・ディスクガイド/久保田泰平

 

時は70年代初頭。歌の主役はヴォーカル、という意識がいま以上に根強かった日本の音楽シーンにおいて、バック・バンドはあくまでも〈バック〉であり、そこにプレイヤーの個性やアイデンティティーなど必要としない、という考えが常識だったのだが……。

73年の夏から秋にかけて、画期的なアルバムが3枚リリースされている。吉田美奈子『扉の冬』、南正人『南正人』、そして荒井由実『ひこうき雲』。それぞれがファースト・アルバムであり、いずれのアルバムもバックの演奏を〈キャラメル・ママ〉というバンドが務めていた。ギター、ベース、ドラムス、ピアノというシンプルな形態から繰り出されるタイトでファンキーな演奏——彼らがソングライターのセンスや先鋭性をより輝かせた〈その時〉、歴史は大きく動きはじめることになる。

キャラメル・ママは、はっぴいえんどを解散したばかりの細野晴臣、鈴木茂と、小坂忠のバック・バンドだったフォージョーハーフの林立夫、松任谷正隆によって結成されたバンドだった。マッスル・ショールズに憧れ、職業として〈ミュージシャン〉の肩書きを持ちたいという細野の意志のもとに組まれたキャラメル・ママは、細野のソロ・アルバム『HOSONO HOUSE』を皮切りにセッションをスタート。前述の3作以降はアグネス・チャンや南沙織など歌謡曲のレコーディングにも参加するなど、その演奏を幅広い層に届けることでバック・ミュージシャンとしての成功を収めていったのだが、バンド単体でのライヴ活動はままならず、単独でのレコーディング作品を残すことはできなかった。そこで彼らは各々の個性をより発揮するために何人かのミュージシャンを招き入れることで、キャラメル・ママを〈ティン・パン・アレー〉という名のミュージシャン・チームへと発展させた。〈集合体〉になることによってより豊かな音楽性の創造が可能となり、これまで以上にスタジオワークをこなしていった彼らは、リード・ヴォーカルに小坂忠や吉田美奈子を据えて全国ツアーも行い、75年11月にはチーム名義による念願のアルバム『キャラメル・ママ』を発表。彼らがクリエイトする音楽は、やがて〈ティン・パン系〉という洗練された都会的ポップスの代名詞になっていった。

ティン・パン・アレーは77年頃に自然消滅したが(2000年にTin Pan名義で、細野、鈴木、林で一時的に再結成)、バック・バンドというそれまで脚光を浴びることのなかったポジションにスポットを当てた彼らの豊潤なスタジオワークは、その短い活動期間以上に大きな影響を音楽シーンにもたらした。それは、日本のポップ・ミュージックの雛形のひとつを築いたと言えるほどに。

 

ティン・パン・アレーのその時々

 

ティン・パン・アレー 『キャラメル・ママ』 PANAM(1975)

キャラメル・ママの4人それぞれがお気に入りのミュージシャンを招き、オープンかつ濃密なセッションを展開した、ティン・パン・アレー名義で初のアルバム。高中正義、後藤次利、矢野顕子、久保田麻琴、南佳孝、桑名正博&晴子の兄妹、山下達郎、大貫妙子ら多彩な面々がクレジットされ、リズム&ブルース~ソウルを下敷きにセンス良く仕立て上げられた作風は、当時はおろか現代においても有効なジャパニーズ・ポップスの教典。

荒井由実 『14番目の月』 EMI Music Japan(1976)

彼女の革新的なソングライティング・センスをより光らせていたのは、デビュー時から始まったキャラメル・ママ~ティン・パン・アレーとの好タッグによるところが大きいだろう。その関係性のピークは〈荒井〉時代で、本作はティン・パン・アレー存命時の最終共演となる。プロデュースは未来の旦那様、松任谷正隆。

いしだあゆみ&ティン・パン・アレー・ファミリーアワー・コネクション』 コロムビア(1977)

ティン・パン・アレーの名スタジオワークは数あれど、歌謡界のスターで、かつ個性的なヴォーカル・フィーリングを持つ女性シンガーとの(アルバム丸ごと)共演は、やはりハイライト。作編曲家としても腕を振るった細野と歌謡系の作家、萩田光雄とのコラボも興味深し。

VARIOUS ARTISTS 『CARAMEL PAPA~PANAM SOUL IN TOKYO~』 PANAM

ミッド90sにおける宇田川町界隈でのもてはやしを受けて編まれた、ティン・パン・アレー〈周辺〉コンピ。鈴木茂のニュー・バンド=ハックルバックや、細野、松任谷のソロ、ムーンライダーズのほか、柄本明“ホワッツ・ゴーイング・オン”(もち、マーヴィンのカヴァー)なんていうお宝も。

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