ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ 〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、トム・ヨークがひたすら踊り続ける“Lotus Flower”のPVも話題となった、レディオヘッドのニュー・アルバム『The King Of Limbs』について。空前の大惨事に襲われたいまこそ世界の終わりを、自分がこれからどうすべきかを考えよう。レディオヘッドはいつだって、そうやって音楽を作ってきた――。
日本のみなさん、いや世界のみんながいま、大変な時を過ごされていると思います。あまりにも何が真実かわからず、世界の終わりを浮遊しているような気持ちです。
世界の終わり、大げさかもしれません。ナチがユダヤ人を大虐殺している時、日本が戦争に負けた時、アメリカとソ連が核戦争一歩手前の時、ユーゴスラビアという国がなくなるまで民族が殺し合いをしていた頃に、世界はもっと終わっていたのかもしれません。この日本の大惨事はただ僕らの世代が本当に身に沁みただけの惨事なのかもしれません。16万人もの原発難民を出したこの事故を僕たちがどう処理していくのか、僕には全然わかりません。日本に皇居よりも大きな空虚を抱えて僕たちが生きていけるのか、僕にはわかりません。その穴を埋められるのかも、わかりません。その空虚を埋めるのがロックだなんて、僕には言えませんし、そうも思いません。音楽がこの悲しみを癒してくれるとも思いません。
第2次世界大戦中は、アメリカと、ドイツ、イタリア以外のヨーロッパの人たちをジャズが元気付けました。ベトナム戦争中はジミ・ヘンドリックスやドアーズなどのロックがベトナムのアメリカ兵の心を慰めました。でもいま、僕たちの心を慰めてくれる音楽なんてありませんし、どれだとも言えません。でも、音楽は聴いたほうがいいと思います。レディオヘッドの新作『The King Of Limbs』がいちばんいいんじゃないでしょうか。しかも、ダウンロード配信ではなく、CDという形になって出るそうじゃないですか。ぜひ、CDで買ってください。そして、ジャケットを手に取って、触って、見つめてください。まだ実物を僕も見てないんですけど、いつものレディオヘッドみたいに素晴らしいジャケットのような気がします。隅々まで覗いてみてください。きっといろんなものが見つかるでしょう。そして、あの銀色の丸い盤を手に取って、CDプレイヤーに入れて、プレイボタンを――それはオンラインにはない快感があるでしょう。
形あるものは素晴らしい。データはやはり、形がないように思えてしまいます。原子力が恐いのは目に見えないからです。だから僕はまだ、形のあるものが好きです。愛してます。いつの日か原子力が僕らの目に見えるようになるのか、そんな日が来るのか、僕にはわかりません。でも、まだ早すぎたというのは確かです。早く封印しないといけないと思います。それまではこのレディオヘッドの新作を聴いて、素晴らしい音やリズムに合わせて、“Lotus Flower”のPVのトム・ヨークのように踊ろう。そして、世界の終わりを、自分がこれからどうすべきかを考えよう。レディオヘッドはいつもそうやって、音楽を作っています。ここにその答えがあるのか。ないでしょう。でもあなたはきっと、見つけられるはずです。