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ウェブ連載「和田博巳の音ラボ」 vol.1 “DSD配信とは?”

カテゴリ
web exclusive
和田博巳の音ラボ
公開
2011/04/28   20:35
更新
2011/05/02   20:10
テキスト
text:和田博巳

ウェブ連載開始!第1回目は話題の高音質フォーマット、DSDファイルの試聴レポートです

本コラム第1回目は、高音質配信サイトのe-onkyo musicでスタートした、「DSD配信」をご紹介しよう。

皆さんはデジタル音声の記録方式には、PCMのマルチビット方式(例えば44.1kHz/16bitのCDや、96kHz/24bitといったWAVファイルなどがある)のほかに、1bit/2.8224MHzのDSD方式があることはご存知でしょう。こちらはスーパーオーディオCD(以下SACD)のフォーマットとしてもよく知られている。このDSD方式は100kHzまでカバーする超広帯域な周波数特性と、120dBという高ダイナミックレンジで、PCMのマルチビットとはまた異なった、滑らかで艶やか、アナログっぽいと言ってもいい自然な質感の音を提供してくれる。

e-onkyo musicから配信中の高音質DSD音源は、現在クラシックは既に40タイトルを数え、そしてジャズ系に目を向ければ、注目すべきレーベル、アメリカン・クラーヴェを中心にこちらは16タイトルがラインナップされている。アメリカン・クラーヴェはレーベルのスタート当時(1980年)から筆者の大好きなレーベルで、NYはダウンタウンのマンハッタン界隈を根城に、ジャズ、ラテン、アートロック、ニューウェーヴ、ワールドといったジャンルを縦横無尽に行き来し、ボーダレスで官能的な、つまりミクスチャーミュージックの夜の博覧会とでも言いたくなる、一風変わった、しかし実に素敵なレーベルだ。

このレーベルを主宰するキップ・ハンラハンは、NYアンダーグラウンドシーンの奇才と言われたりもするが、確かに決してメージャーに媚びない頑固で風変わりな男だ。とは言え、このレーベルに参加したキラ星の如きミュージシャンの名前を見て、そしてそれらのアーチストたちから真に信頼される人物だとすれば、キップ・ハンラハン、やはり只者ではない。そのミュージシャンたちとはアート・リンゼイ、ドン・プーレン、スティーヴ・スワロウ、オラシオ・エルナンデス、ジャック・ブルース、スティング、アントン・フィア、カーラ・ブレイ、ブランドン・ロス、フレッド・フリス、ジョン・スコフィールド、テオ・マセロ、レスター・ボウイ、デイヴ・リーブマンetc. まだまだいくらでも名前を挙げることができるが、要はマイ・フェヴァリット・ミュージシャンが大挙して参加しているのだ。概ねがジャズとラテンを下敷きにしてはいるが、何ともジャンルが特定し難い音楽に仕上がっている、というのもこのレーベルが好きな理由だ。

DSDの再生についてはe-onkyoサイトhttp://music.e-onkyo.com/artist/m101210_R.asp#howto)の1番下のところをご覧になって欲しいが、ダウンロードしたDSD音源は、コルグのMR-2000SやMR-2といったDSDレコーダーに保存して再生する仕組みだ。今回はMR1000というモデルを使用したが、グレッグ・カルビ入魂のマスタリングの素晴らしさ改めてよく分かった。キップ・ハンラハンによれば、「俺もグレッグも大のデジタル嫌いだ。だからこそCDではなく、DSDマスタリングによるSACDで、やっとアナログの質感が叶ったと喜んだんだ」。これは実際に筆者がキップ・ハンラハンから聞いた話だが、そのアナログっぽい質感をDSD配信はSACDに負けず劣らずよく伝える。


KORG MR-2000S

キップ・ハンラハンの「ビューティフル・スカーズ」とミルトン・カルドーナの『BEMBE』のDSDダウンロードを実際に聴いてみた。SACDの音に筆者は100%満足していたが、しかしDSDファイルの音はもう少し肌触りが柔らかく自然体という感じ。ピアニッシモの部分でもミュージシャンの気配や息づかい、スタジオに満ちた空気感といったものがよく感じられる点は、どちらも素晴らしいが、DSD配信はよりニュアンスに富み、対するSACDは実体感があって音像がしっかり描かれる、という感じだろうか。それぞれによさはあるが、何にせよDSDの高音質が配信で手に入るのだから凄い時代になったものだ。

※この連載では読者の皆様からのオーディオについてのご質問を受け付けております。和田さんに聞いてみたい、相談してみたいことがある方は、以下メールアドレスまでふるってご連絡ください!

質問送り先:intoxicate[at]tower.co.jp

和田博巳:1948年生まれ。オーディオ&AV評論家。はちみつぱいのベーシスト、フリーの音楽プロデューサーを経て、現在はオーディオ・AV専門誌を中心に新製品の試聴記、インタヴュー、エッセイ等の執筆やオーディオ・イヴェントや試聴会での講師などを務める。