ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ 〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、デビュー作『Friendly Fires』でいきなり世界中を踊らせた3ピース・バンド、フレンドリー・ファイアーズの新作『Pala』について。確信犯的に開き直ったとも思える本作、その裏側から聴こえてくるものとは――?
フレンドリー・ファイアーズのセカンド・アルバム『Pala』がポップで素晴らしい。ポップというと語弊があるか? でも、XTCが3作目『Drums And Wires』で確信犯的に英国マーケットに媚を売った時のような、スコーンと抜けた開放感がここにはある。そしてXTCと同じく、その開き直りの裏から聴こえてくる緻密な音作りの気持ち良さ。もうたまりません。ジャスティン・ティンバーレイクの傑作エレクトロ・ダンス・アルバム『Future Sex/Love Sounds』に匹敵するんじゃないでしょうか。メトロノミーなどの同時代のニュー・ダンス・グループを完全に抜いてしまいましたね。
今回2回目の〈確信犯〉って言葉を使ってしまいますが、「ロッキング・オン」誌6月号の粉川しのさんによるインタヴューで「フォールズやアニマル・コレクティヴみたいなすごくいいインディー・バンドに比べるとポップすぎる、センス悪いってことになったりするわけで」と答えているから、本人たちもよくわかっているんだと思うんですよ。フォールズやアニマル・コレクティヴみたいに賢そうな、実験的なことをやるほうがいいというのはよくわかっているんです。まあ、勝負に出たってことでしょうが、しかし、その勝負が見事に当たりましたよ。
極東の国ではチェルノブイリの10倍の放射能なのか、地球のほとんどが汚染されてしまう量なのか、全然わからない謎に満ちたパンドラの箱が爆発しそうで(みんな安定したと思っているしょ、実はいまの状況がプロローグでしかない可能性大なんですよ)、オサマ・ビン・ラディンが殺害されて、人々はまたテロの恐怖に怯える、こんな時代が何年続くのかわからない。そんな状況で人々はもう暗い音楽なんか聴いてられないですよ。せめて音楽を聴いている時くらいは弾けないと。
しかし、不思議ですね。前作『Friendly Fires』の名曲“Paris”では〈パリに住んで、フランス人の彼女を作るんだ〉と、生きることをなめまくった歌を歌っていた彼らが(それがかっこ良かったんですが)、上述のインタヴューでは「日々の生活のなかからその良さを拾い上げ、生きている一瞬一瞬を大切に思う、そういう歌が詰まっているんだ」とか語っていて、〈音だけじゃなく、歌詞までも戦争中の若者の日記かい!〉って、ツッコんでしまいたくなります。
時代を予感していたんですね。なんでもヴォーカル/ベースのエド・マクファーレンは、このアルバムの3分の1を作ったくらいで一人、TVも電話もインターネットもないフランスの田舎のお化けの出そうなコテージに籠もって、残りの曲を作ったそうです。時代と隔離された空間で、時代の空気を感じ取る。これぞ、アーティストの鏡でしょう。
そんな素晴らしいアルバムですが、彼らのバンド名の由来であるセクション25――イアン・カーティスの親友のバンドで、でも、あまりにもイアンと歌い方が似ていたから亡霊のように捉えられていた可哀想なバンド。初期の頃はジョイ・ディヴィジョンよりも斬新で、バーナード・サムナーがプロデュースした『From The Hip』が傑作エレクトロ・ダンス・アルバムだったにも関わらず、シーンのトップに躍り出られなかったバンド――そんな彼らの復讐劇のように、フレンドリー・ファイアーズが、良い作品を作っていってくれていることが、僕はいちばん嬉しい。僕の好きだったセクション25の方法論は間違っていなかったと、彼らが言ってくれているような気がするから。