ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ 〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、5月23日に全世界同時でリリースされたレディ・ガガの新作『Born This Way』について。PVやアートワークも含め、エキセントリックな話題性を最大限に纏って到着したのは、全方位的に間違っていない最高のポップス・アルバムで――。
レディ・ガガの新作『Born This Way』、ヤバいす。よくできてます。このアルバムからのシングル曲“The Edge Of Glory”“Judas”“Born This Way”が“Poker Face”“Telephone”に比べると弱いと思っていたので心配してたのですが、もう“Marry The Night”“Born This Way”“Government Hooker”“Judas”という流れ、最強でしょう。ロックとトランスを混ぜた昂揚感がたまりません。“Government Hooker”のダークなエレクトロ・テクノな感じも最高です。下世話と言えば下世話なんですが、そこをガガ様の存在感が吹き飛ばしています。
ロックとトランスを混ぜたと言えば先駆者は浜崎あゆみで、“M”はその最高作だったんですけど。ガガ様あゆを研究してないすかね。“M”の前の傑作“vogue”“Far away”“SEASONS”という絶望3部作を聴いて、「やっぱ、売れるためには悲壮さがないとダメなのよ」と、『The Fame Monster』から今作に繋がるダークな流れになったと僕は思っているんですけど、どうでしょうか。うーん深読み。
でも、ガガ様は凄く計算されてます。ガガ様、もともとはNYのロウワーイーストの都会の少女だったのに、“Born This Way”ではいつの間にかアメリカの中西部の名もない町の少女になってますね。これは偉いと思った。やっぱアメリカでウケるためにはこれですよ。アメリカのパスポートを持っていない、レッドネックの女の子たち。あの、アメリカのドラマ〈グリー〉で描かれる彼女たちですよ。〈グリー〉での名言「私たちはこの町で生まれ、この町を出ることもなく、死んでいく。誰もヒーローになんかなれない。そんな人生のなかでも一度は輝いてみたい。だからグリー(合唱曲)をみんなの前で歌うの」(たぶん、こんなことを言ってた)を――まさに、田舎の女の子がスターになることを誓った歌ですよね。もともとは、田舎のオカマちゃんがドラァグ・クィーンになることを夢見て、都会に出て行って、スターになる。そして、彼は叫ぶ「メイクなんかしなくっても、私自身でクイーンになったのよ」という歌ですが。それと、レディ・ガガは小手先のスターじゃないというトリプル・ミーニングとなっているんですけど。でも、この曲はよくできてますよ。
シングルの時はあのエイリアン・チックなPVで、その前が“Judas”だったので、〈はいはい〉という感じだったのですが、曲調がサザン・ロックな感じだし、歌詞があれだから、やったなーと喝采しました。PVのあのダンス、カウボーイのダンスですよね。この曲のロック・ヴァージョンもありますしね。マドンナもここまでいくのにだいぶかかりましたよ。
実は、都会にはマーケットがないんですよ。日本の場合もそうですけどね。田舎に行って、車のなかを覗いて、そこにあるCDがヒット・チャートの曲なんですよ。それをレディ・ガガはダサくならず、高尚にやっているんですよ。かっこいいです。レッドネックが嫌うゲイも見捨てず、政治家にしたら最高の政治家でしょう。全方位的に間違っていない、最高のアルバムです。これをポップスというんですよ。ガガ様、最高!