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冨田勲『惑星』『源氏物語完全版』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/05/30   16:40
更新
2011/05/30   17:07
ソース
intoxicate vol.91 (2011年4月20日発行)
テキスト
text:松山晋也

糸川博士へのレクイエムとして『惑星』が復活。『源氏物語完全版』も同時発売

作曲家・冨田勲は言うまでもなく電子音楽のパイオニアだが、同時にサラウンド音響の探求者でもある。かつて氏の自宅に取材に行った時、リヴィングそのものが天井にまで巨大スピーカーを埋め込んだサラウンド・ルームになっており、驚かされたものだ。

そんな冨田勲のサラウンドへの情熱が79歳になった今もまったく衰えを見せない証として、この6月に『惑星 Ultimate Edition』がリリースされる。ホルストの名曲《惑星》をシンセサイザーで演奏した冨田版『惑星』が最初に出たのは76年だったが、03年には、4.1サラウンド・システムによるDVDオーディオ『惑星 2003』が発表された。その圧倒的音響に驚かされた冨田ファンは少なくなかったはずだが、やはりDVDオーディオという当時としてはかなり特殊な規格ゆえに、一般リスナーの耳には届きにくかった。そこで今回改めて発表されたのが、4.0サラウンド・システムと通常の2chのハイブリッドSACD『惑星 Ultimate Edition』というわけである。

だが、変わったのは、規格だけではない。

これまではホルストの原曲同様《火星》から《海王星》までの計7曲が収められていたが、今回は新たに《木星》と《土星》の間に書き下ろしの新曲が付け加えられた。題して《惑星イトカワと探査機はやぶさ》。そう、昨年、世界中を驚愕させた快挙を題材にしたものである。そしてそれは同時に、冨田がかつて深い親交を持った故・糸川英夫(日本の宇宙開発の先駆者)への追慕、というか糸川の人生そのものに対するレクイエムとでも言うべき作品である。わずか5分足らずの小曲だが、真っ暗な大宇宙のただ中で果敢に帰還作業を続けるはやぶさの孤独と勇気が見事に表現されており、このパートの挿入によって、《土星》以下の終盤、いや『惑星』という組曲全体までもが違った意味合いを持っているようにすら感じられる。

 

なお、今回は同時に、11年前に出た『源氏物語幻想交響絵巻』も、語りなどを加えてサラウンド的視点で一段と発展させた完全版もリリースされる。こうした、冨田の“サラウンド最終決戦”については、本誌次号で改めて詳しく報告したい。