ただのレッスン風景の紹介にあらず、総合的な〈映像作品(ドキュメンタリー)〉の仕上がり
『レ・ルソン・パティキュリエ(個人レッスン)』とは、1987年から1991年にかけてフランスの放送局〈La Sept〉が12回に渡って放映した音楽番組。レッスンとは銘打ちつつもただのレッスン風景の紹介にあらず、講師のインタヴューや日常風景の映像、あるいはレッスンする場所に相応しいロケーション選択場面など、総合的な〈映像作品(ドキュメンタリー)〉とも言いうる内容に仕上がっている。第1回発売の今回はヤーコプス、スコット・ロス、イヴォンヌ・ロリオ、ヘルマン・バウマン、ピエール=イヴ・アルトー、ビルスマの6タイトル(次回はヤノフスキ、プーレ、バシュメット、マガロフ、ケネス・ギルバート、ジョセ・ヴァン・ダム)。
試聴したのは全12タイトルの抜粋による32分間収録のサンプラーDVDであるが、筆者にとって何よりも印象的なのが各講師=アーティストの真摯なレッスン姿勢と言葉の端々、態度、表情から立ち上ってくるそれぞれのパーソナリティの素晴らしい魅力、つまりフォトジェニーな魅力、これに尽きる(さらに言えば、各巻の冒頭にクレジットされている監督の〈演出力〉。フィクション作品でなくとも、目前の対象をどう切り取ってどう映像に定着させるのかは監督の意思である)。勿論レッスンであるから、具体的かつ実用的な指示・指摘に満ちているのは当然で、それぞれの楽器を嗜む人にはこの上なく有益だろう。しかしながら、それを超えた具体的な〈映像〉に筆者はこの上なく魅力を感じる。その意味で差し当たってイヴォンヌ・ロリオの巻。教会でロリオが《幼子イエスに注ぐ20の眼差し》を弾くシーン。《ノエル》を弾き終わると同時に12時の鐘が鳴り響く。そこで画面はロリオにクローズアップ。にこやかに微笑みながらピアノからメシアンに向き直る。まるで神の恩寵だ、とでも言わんばかりの幸福感溢れる表情。その後にバストショットで映し出されるメシアンは無言で微動だにせず、神妙な表情で佇んでいる。これは観てもらう以外にないが、全くもって素晴らしいイメージの連鎖という他ない。これが演出でない、とは言い切れない。しかしここには紛れもない〈対象の真実〉が露呈している。