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ライヴ・レポート──冨田ラボ "Live -combo-" 2011/5/20 ブルーノート東京』

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公開
2011/06/17   18:51
更新
2011/06/17   19:59
テキスト
text:タナカシンメイ

5年ぶりのライヴをふりかえる

冨田ラボという人を語る上で、何を軸足に話すのが良いのか、悩むことがある。氏を形容する肩書きは多く、それはマルチな才能の裏づけと言っていい。アルバムにおけるバックトラックの制作をほとんど一人で手がけ、演奏家としてはキーボーディスト、ギタリスト、ベーシストであり、さらにキリンジの2人に言わせれば、「人間の演奏を超える打ち込みをする」マニピュレーターでもある(笑)。そしてもちろん、当代きっての作曲家、編曲家、プロデューサーであり“ポップ・マエストロ”との異名をとる。そんな彼の精密に構築された楽曲を、レコーディングに近い形で再現するライブを行ったのが早5年前の2006年。豪華ゲストを迎えての大編成の公演は、ライブでは再現不可能と思われた冨田ラボの世界観を見事に構築してみせた。そして先日、自身、初となるコンピレーション『WORKS BEST~ beautiful songs to remember~』をリリースし、ブルーノート東京というジャズの聖地において、コンボスタイルでライブを行うという知らせが入った。その緻密な建築のような音楽を、限られた編成でどのように再生するのか、またオリジナルとは違うヴォーカル陣が彼の歌をどのように自分のものにするのか、非常に興味深く大きな期待を持って会場へ臨んだ。

ショウは、最初にインスト曲などで肩慣らしをした後に、坂本真綾、秦 基博、bird、Hiro-a-keyというそれぞれの強い個性をもったヴォーカリストが2,3曲ずつ歌ってチェンジしていくスタイル。まるで小さなフェスを見せてもらっているような、そんな気持ちになってくる。冨田ラボの持つ魅力のひとつは、曲の魅力を引き立てるヴォーカルを的確にキャスティングする部分にあると思う。オリジナルでは松任谷由実が歌った《God bless you!》を坂本真綾の透明度の高いキュートな声で歌うと楽曲の違った魅力を引き出すことに気づく。またハナレグミの印象が強い《眠れる森》を秦基博が歌えば、意外にも歌い上げるそのスタイルが、曲に新しい息吹を与える。アルバムでは冨田自身がヴォーカルを担当した《横顔》もHiro-a-keyの量感のあるヴォーカルによって、また別の顔を覗かせる。そして最後に登場したbirdは、彼女のアルバムから冨田ラボがプロデュースした《パレード》を披露。やはり彼女のために書かれた曲は、彼女の魅力を余すことなく伝えきっていた。

そしてもうひとつ、氏の魅力を上げるのであれば、それはやはり彼の楽曲自体が持つ美しさ、力強さ、そして優しさ。一般的にはその流麗なアレンジに目が行きがちだが、この少ないメンバー編成だからこそ、逆にメロディーの持つ芯の強さが明確になっていたと思う。決してアレンジだけでは成立しない高いクオリティーの旋律。それこそが冨田ラボの魅力に他ならない。

彼のライブには本当に沢山の楽しみ方があって時間が経つのが早い。演奏家として見る楽しみ、多彩なヴォーカルを迎えてのフェス的な楽しみ、そして何より音楽そのものを味わう楽しみ。そんな沢山の楽しみが詰まった夜だった。前回の大編成のライブもよいが、少ない編成での公演も是非定期的に行って欲しいと思う。

冨田ラボ "Live -combo-"
5/20(金)ブルーノート東京

メンバー:
冨田 恵一(キーボード、ギター)
坂本 真綾(ヴォーカル)
秦 基博(ヴォーカル)
bird(ヴォーカル)
Hiro-a-key(ヴォーカル)
村石 雅行(ドラムス)
鈴木 正人(ベース)
松本 圭司(キーボード、ギター)
山本 拓夫(ウッドウィンド、リード)
西村 浩二(トランペット、フリューゲルホーン)