2009年4月1日に消費期限付きの活動再開を発表し、2010年2月の日本武道館公演、3月のミニ・アルバム『≠』をもってふたたび沈黙状態に突入していたcali≠gariが、6月18日、19日に日比谷野外大音楽堂にて2デイズ・ライヴ〈cali≠gari #7 10th Caliversary GIG 「真梅雨の野外 ~再起Do?~」〉を開催した。
発端は今年の4月1日にオフィシャルサイトで公開された動画である。武井誠(ドラムス)のソロ第2弾“どっちつかずのme党革命”のPV及び独占インタヴューの最後にさり気なく〈cali≠gariの日比谷野外大音楽堂 2Days ライヴ決定!〉というテロップが流れるというもので、発表された日がエイプリルフールだったこともあり、本当にやるのか、というか、そもそもバンド活動を〈再起動〉するのか、だとしたら今回は継続的なものなのか……など、さまざまなことが曖昧なままに迎えてしまった当日。以下は、その2日目のステージのほぼ一部始終である。
前日とは色もデザインも異なるコートofレイン(上の写真)を手にゲートを通過。会場を見渡すと、初日は舞台中央から客席方向に向けてファッションショーのランウェイのように伸びていた花道が撤去され、ステージの両端にはお立ち台のようなスペースが設置されている。背後にはバンド名を象った電飾と大型スクリーン。セットは前日よりシンプルに見える。
だが、そのぶん、この日のライヴは4人のマンパワーが際立っていたように思う。ステージ上どころか会場全体を動き回ってエネルギッシュな演奏を繰り広げる一方で、ツンデレ&意外と天然なMCはグダグダ。〈現在のメンバーとなって10年を迎え、そして桜井青(ギター)にとっては30代最後のライヴ〉と銘打っていたわりには、アニヴァーサリー感も皆無(後半部分に関しては当人が拒否)。言わば、ON/OFFのコントラストで観客を翻弄しながらも、1年以上休眠していたわりにはなぜか――なぜか、バンド感がグッと強化されたステージングだった。
初日と同じくわらわらと登場したcali≠gari一同。毎回エキセントリックな姿を披露する石井秀二(ヴォーカル)も、前日のような誤解(詳細はこちら)は生じない……というか、むしろ誤解の生じようもないスッキリとしたスタイルだ。最新のアーティスト写真(下の写真)の如く極端に横になびいた頭髪+黒の超ワイドパンツ+素肌にベスト。だが、そのベストの布とチェーン(or紐状の何か)との比率は1:9ほどで……つまり、スッキリというかほぼ半裸である。村井研次郎(ベース)が纏っているメタル×ヴィクトリア朝(?)とでも言うべき衣装もすごい。そして、桜井は白の長袖シャツ+黒の半袖ジャケット+ハーフパンツで、武井はグラフィック柄(?)のTシャツ+黒パンツ。よく見るとバラバラだが、遠目にはモノトーンな統一感がある感じだ。
初日と大半が同じセットリストながら、曲順と演出の違いで魅せ方に変化を持たせた2日目の冒頭は、前日のアンコールのラストを飾った“エロトピア”。オフィス街のど真ん中に、ざらついたギターと桜井の喘ぎ声がこのうえなく淫靡に響き渡る。客席側のテンションもいきなりMAXで、石井が艶かしく〈エロトピア/僕たちピンクの〉と観客にマイクを向けると、会場全体が〈猥褻物!!〉と大合唱。客席の中央2か所に据えられたスプリンクラーからは、勢いよく水が噴き上がる。
続いて、手首から先が細胞分裂のように増殖し、神経質に蠢く映像とグルーヴィーに暴れるベースラインがシンクロした“反ッ吐”。歌パートはひたすらに〈反ッ吐〉を繰り返す曲だが、3声のコーラスワークを生できっちりとキメていた。そして、イントロのギター・リフが鳴り響くと同時に大歓声が沸き起こった“せんちめんたる”。ドラム→ベース→ドラム→ベースと目まぐるしいソロ回しが挿入されるなか、桜井はサビでお得意の回転弾き(片足を軸にして自転しながらギターを弾く)を繰り出す。節電を意識した演出のために今回は電動の回転台が用意されなかったようだが、なくてもまったく問題ない。ちなみに前日は前日で、軸足(つまり、回転する方向)を一定間隔で変えながら、長い花道の端から端までを移動するという人力回転のエキスパートぶり(?)を見せ付けていた。
「昨日は後ろのほうにいた人がさ、俺、禿げてるように見えたんでしょ? 頭全部、剃っちゃってるように見えたようなんだけど、でもこのへん(ステージ近く)にいた人は〈可愛い〉って、ね」。
――と、MCの最初で、前日の頭髪に関する疑惑に触れる石井。その後、ヘアメイクの人がthe GazettEも担当しているので、今度、自分もthe GazettEのライヴにゲストで入れてもらえることになったことを告白。さらに、観客に「拍手!」と祝福を強要。
「そこまでは盛り上がりそうもない曲をやりましょうよ」と導かれた楽曲は“スクールゾーン”。立て続けて“夏の日”“ママが僕をすててパパが僕をおかした日”。ポップな歌謡性のなかに広がる〈桜井青ワールド〉――痛々しいほどにシビアでセンティメンタルな詞世界を、丁寧に歌い紡ぐ石井の歌唱が沁みる。
「昨日ね、久しぶりに演ったんだけど、〈あれ?〉みたいなのあったじゃないですか。誠さんが〈求められてる〉って言ったからさ、俺は別にどっちでもよかったんだけど、なんか……せっかく作り直してきたわけじゃん。そのままやることもできたけどね? 昔のやつを。でも、それじゃあちょっと申し訳ないなと思って、新しくしてきたんだよ、わざわざ。それであなたたちも静まり返ってたら、申し訳ないでしょ? だからさ、昔からすっげえ人気があった曲なんだ、っていうイメージを作って(盛り上がって)ね」。
切なさと煌めき度がアップしたプログラミング部分とバンド・サウンドが同期したテクノ・ポップ・ナンバー“デジタブルニウニウ”を披露すると、アッパーなBPMをキープしたまま“散影”へ。そして、そのまま石井の手による新曲“娑婆乱打”に突入。軽やかに跳ねるストリングス風のシンセ・リフと矢沢永吉を彷彿とさせるサビ、ベースの超速ソロなどキャッチーなフックが満載で、流れはスムースながら構成は意外にも風変わりな楽曲である。
「研次郎がしゃべりますよ」と告げた石井をはじめ、村井以外は完全なる休憩タイムに入ると、スクリーンには〈村井研次郎〉と映し出される。以下が、メモできた限りの〈村井コーナー〉のMCの数々である。
「ここは、cali≠gariのライヴで唯一〈ワー!〉とか〈ギャー!〉とか言えるコーナーだ、イエイッ!」
〈ワー!〉とか〈ギャー!〉といったコール&レスポンスをひとしきり繰り返したあと、「ひとつ耳寄りな情報をお前たちにあげよう」。少し間をおいて、「俺たちcali≠gariはいま、メンバー間が結構ギリギリの状態なんだ。去年の暮れ、俺は桜井青にメールをしたんだ。そしたらドメイン拒否がされてたんだ! 〈宛先unknown〉で返ってきちゃったんだ! 俺はいまでも気にしている」。
「もうひとつ、新鮮な情報をお前らに教えてやろう! 一昨日な、石井秀仁にメールをしたんだ」――先が読めるが黙って聞いていると、「宛先不明で返ってきたんだ。これだけギクシャクしたcali≠gariをどうしたらいい!?」。
「ここで恒例のコール&レスポンスをしたいと思う。甘い、ツルツルの食べ物を頭に浮かべてくれ」――唐突にアバウトな要求をされた客席、うろたえる。そんな空気にはお構いなしに、村井は「お前らなんか所詮ただの!」……と、強引にコール。だが観客たちはついていけず、レスポンスももちろん、ほとんどない。そんな反応に対して村井は、「そんなんだから解散するかもしれないんだ!」と抗議。客席はさらにうろたえた挙句、〈もしかして、ゼリー?〉――と、なんとなく答えを弾き出す。「俺たちだって所詮ただの!」「ゼリー!」「お前らだって所詮ただの!」「ゼリー!」と、声を裏返しながらのコール&レスポンスをなんとか成立させると、「ようし、聴いてくれ! cali≠gari史上最大のヒット・シングル“ゼリー”」。
アングラなジャズ歌謡“ゼリー”が始まって狂騒の体ではあるが、観客それぞれが〈cali≠gari史上最大のヒット・シングル?〉――と、胸の内に疑問を抱いている様がひしひしと伝わってくる。ちなみに、“ゼリー”はライヴの鉄板曲ではあるが、最大のヒット・シングルどころか、シングルですらなかったはずである。ここから“―踏―”、桜井がギターを一切弾かずにバナナ投げに徹した“混沌の猿”、冒頭のギター&ベースのユニゾンの際に桜井と村井が笑顔で肩を組んでみせた“グッド、バイ”と駆け抜けて本編は終了。
「もう少しね、暗いほうがいいんですよね、ホントはね。懐中電灯が……まあ、意味がない、ですよね。仕方ないよね、(暗くなるのを待つには)このあと1時間ぐらいしゃべってなきゃならないし」。
そんな石井のMCで始まったアンコール曲は“オーバーナイトハイキング”。客席のあちこちで懐中電灯の明かりが灯りはじめ(事前にバンド・サイドから可能なら持ってくるように、とアナウンスされていた)、暮れなずむ会場のなかに小さな光がポツリ、ポツリと増えていく。そのなかを、ギターを弾きながら行進する桜井。〈夜を歩く〉という歌詞さながらに客席中央を真っ直ぐに横切り、そして最後には立見席のエリアまでをぐるりと会場を一回りしてステージ上へ。すると、スクリーンにはモノクロの土砂降りの風景が映し出されて――続いたのは“続、冷たい雨”。そして、桜井が手掛けた新曲。しっとりと歌い上げられるアーバンなミドル・チューンと、オレンジ色に染まったビル街から青紫の夜景へと移り変わる映像が、都市のなかに溶け込んでいる哀愁を浮かび上がらせる。その映像の最後で前日は伏せられていた曲名“東京、43時00分59秒”が公開され、メンバーは退場。
2度目のアンコールの導入では、この日、初めての桜井のMCが。
「要求されてもあんまり話すことなんてないですよ。昨日ね、感動のMCするって言ったじゃないですか。大体そういうときって、口からでまかせ言ってるってことにそろそろ気付いてほしいですね。強いて言うなら、いま何が大切かって言うとですね、このままいくと陽が完全に暮れる前に終わってしまう……こんなに健康的なバンドもなかなか、ない(苦笑)」。
「あと3曲歌って、今日は終了なんですよ」――客席からのブーイングを受けて「……って思うじゃん? (客席に期待感が満ちると)……終わりなんですよ」。そんな観客とのやり取りを何度か繰り返すと、「最近ね、MCはあちらの方が」……と、村井へバトンタッチ。
「お前ら、桜井青の煽りが聞きたいかー!?」「桜井青の男気が見たいよなー!? 桜井青の……なんか、いろいろが見たいよなー!? ようし、ここは桜井青に、cali≠gari史上最強の曲振りをしてもらおうじゃないか!!」――村井がそう盛り上げたにも関わらず、「いやです(即答)。まず男気がありません。女気しかありません」と冷たくあしらう桜井。そのわりに「……じゃあ、〈ワー!〉とか〈ギャー!〉とかやって終わりたいと思います」と告げて、絶叫。
「まだまだイケるだろ!?」。
観客も歓声で応える。「もうちょっとイケるでしょ?」と、今度は柔和に、けれど確実にヴォルテージを高めていき、「まだまだイケるだろ!? 日比谷――――!! イケるのか――!? イケるのか―――!? 〈ハイカラ〉――――!!!」。
ここからは、まさにラストスパートの如く“ハイカラ・殺伐・ハイソ・絶賛”“失禁”“37564。”を連打。右のお立ち台、左のお立ち台と二人揃って移動しながら会場を煽る桜井と村井に、〈ハイカラ!〉〈殺伐!!〉〈ハイソ!!!〉〈絶賛!!!!〉と絶唱で応える会場。いなたいギター・ソロが上空へ立ち上るなか、ようやく真っ暗になった森のなかを点状のレーザーが粉雪のように舞う。“失禁”では前日に続いてポール状のバルーンがステージ両脇から立ち上がり、“37564。”では徐々にスピードを上げていくドラムと石井の〈37564!!〉という狂乱の雄叫びでヒートアップ。ラストは不穏な残響を残してメンバー退場。
3度目のアンコールの前の石井のMC。
「……ほどほどで、いいと思うんだよね。満腹になられてもね。今日しかライヴやらないなら別ですけどね」――そう語るや否や、客席からは「おお~っ!?」と歓声が。「えっ……(今後の活動予定は)発表されてるんでしょ? あれ? えっ?」と、焦った石井は桜井に近寄って何かしら耳打ちし、その結果「すみません、間違えました」。畳み掛けるように、桜井から「ドラマ性がなくなるんでやめてください」と叱られる一幕も。桜井は続ける。
「もう終わりなんですけど……(客席からの声援に反応して)おめでとう? まさかさ、ハタチ・セカンド・シーズンについての〈おめでとう〉だったら、(念を押すように)まだなってないのでやめてもらっていいですか。結構デリケートな問題なの。30代から40代にいくっていうのはね、初老になるっていうことよ。わかる?」
「あの、ね、ちょっと感慨深いんですよ、ホントに。2003年6月に、ぶっちゃけ終わったじゃないですか、このバンド。でも同じメンツでここに立てるということがですね、ホントに嬉しいです。世界でいちばん適当なバンドだと自負してますので、ある日突然、ひょっこり消えてしまうかもしれないですけど、ひょっこり消えるまでですね、ぜひ、皆さんといっしょにいたいです」――と、ちょっとホロリとさせるようなことをコメント。しかし、次の瞬間には「こういうこと言っとくと、大体いい方向性のMCだと思うんです。まあ、あんまりキャラじゃないんで聞き流してください、いまのは」。
「で、本題にいくんですけれど、(桜井の顔が描かれた団扇であおぎながら)これわかります? わかりますよね? 団扇って言うんです。U・T・I・W・A、団扇……売れ残ってるんです」。
会場から笑いが起きるなか、団扇ネタは続く。「作りすぎたスタッフもいけないんですけど、どちらかというと最近、人気の方向性がですね、研次郎さんのほうへシフトチェンジしてるんで、ワタクシのほうはどんどん売れ残っていって……これを買っていただかないと、(急に早口で)お前らみんなまとめて地獄行きなんだよ。(翻すように優しい声音で)みんなといっしょにいたいじゃない? これを買えば、みんなといっしょに、いられるよ」。
そして、「ここから石井さんの怒涛の煽りのMCから入りまして、いつもの定番の曲を1曲やって、終わりたいと思います。皆さん、ありがとうございました」と石井に無茶ぶり。
受けた石井は、「俺もほら、歌とかじゃなくて、MCの天才だから。じゃあね、そうだな、あのね、サポート・キーボーディストの方が、今日はすごいんですよ。○○○(某スタジアム級バンド)っつったら、みんな知ってるでしょ? 俺も知ってるし、○○○の……」。
その途端、桜井が「やめて、それホントにデリケートな問題だからやめて!」と懇願。「そのバンド名自体出さないで! 中小企業と大企業みたいな話だから」――と、言いすがる桜井を「そんなね、ヘンなこと言わないから大丈夫! 俺、結構大人なんだから……」となだめて、石井はサポート・キーボーディストの秦野(猛行)を紹介。「○○○をサポートしているような人がサポートしてくれるcali≠gariってことだよ。ってことは、cali≠gariも○○○みたいなもんだよ。だからほら……(村井を指して)△△△(某スタジアム級バンドのベーシスト名)みたいなもんだよ」。すると客席からは「▲▲▲(某スタジアム級バンドのヴォーカリスト名)~」という声が上がりはじめ、石井は遮るように「じゃあ“ブルーフィルム”でもやろうか」。
この曲ではお約束の銀テープが中空に噴射され、会場全体を覆う一体感をもって大団円……のはずだった。事前に配布されていたセットリストではここで終了の予定だったが、最後の最後にエクストラ・アンコールとしてふたたび“エロトピア”。ステージ前方からはスモークが、客席中央のスプリンクラーからは噴水が――噴出できるものはともかく噴出するなか、突如、スプリンクラー部分に桜井が出没。ずぶ濡れになりながらギターを弾きまくり、客席を煽りまくり、結局この日、いちばん濡れた人は桜井という結果をもって(?)ライヴは終了した。
終演後は、スクリーンに記者会見映像が。FlyingStarレーベル専務、飛田星男なる人物とcali≠gariのうち3人のニセモノと本物のMAKOTO TAKEI、そして黒Tシャツの人物……上述の野音ライヴの告知映像でTAKEIのソロ・ユニットの相棒として登場した人が〈ビクター〉と書かれた法被を着て着座。レポーター役は、前日の“エロトピア”のショウに全身網タイツのような衣装で登場したオナン・スペルマーメイド。TAKEIの「こってりスープにチャーシュー山盛りみたいな、強烈なインパクトのあるステージをお見せしたい」といったコメントだの、「再結成アーティストにつきもののトリビュート・アルバム企画は、さほどリスペクトされてなかったようなのでなし」だのの小芝居を打った挙句、全国ツアーとニュー・シングル『#』のリリースを告知。ここで、この日の演出は本当に終了した。
とりあえず、秋までは彼らに翻弄される日々が……もとい、彼らの活動は、なんだか適当に(けれど、こってりとした仕込み具合で)続くようである。
cali≠gari #7 10th Caliversary GIG 「真梅雨の野外 ~再起Do?~」 @ 日比谷野外大音楽堂 2011年6月19日(日) セットリスト
01. エロトピア
02. 反ッ吐
03. せんちめんたる
04. マネキン
05. マッキーナ
06. スクールゾーン
07. 夏の日
08. ママが僕をすててパパが僕をおかした日
09. デジタブルニウニウ
10. 散影
11. 娑婆乱打(新曲)
12. ゼリー
13. ―踏―
14. 混沌の猿
15. グッド、バイ
―アンコール1―
16. オーバーナイトハイキング
17. 続、冷たい雨
18. 東京、43時00分59秒(新曲)
―アンコール2―
19. ハイカラ・殺伐・ハイソ・絶賛
20. 失禁
21. 37564。
―アンコール3―
22. ブルーフィルム
23. エロトピア