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狂気を完全にコントロールしたホラーズの新作に隠されているものとは?

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2011/07/06   18:58
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文/久保憲司

 

ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、作品ごとに独自のゴシックな音世界を進化させているホラーズのニュー・アルバム『Skying』について。サウンドの奥に潜む狂気的な緊張感を完全にコントロールしたかのように思える本作には、果たして何が隠されているのか――。

 

ホラーズの新曲“Still Life”が、とってもいいんです。ジョイ・ディヴィジョンの“Atmosphere”くらい切なくなりながらも、どこかシンプル・マインズのようなポップさも持ち合わせた曲なんです。

前作『Primary Colours』の最後の曲“Sea Within A Sea”もカンの“Mother Sky”みたいというか、“Mother Sky”をループさせた上に、ファリス(・バドワン)の素晴らしいヴォーカルが乗っているだけなんですけど、その音はまさにいまの音です。よくできているなと思う以上に、現代アートのようにセンスがいいなって感じます。

初作『Strange House』からそうですよね。ゴスをこんなに格好よくやった人たちがいたでしょうか? いないです。みんなヴィジュアル系になっていっただけです。格好悪いす。

あのバースディ・パーティーの『Prayers On Fire』を聴いてみてください。“Nick The Stripper”のPVを観てみてください。このヤバさが、ゴスなんですよ。この格好よさをいまも持っているのが、ホラーズなんです。

『Strange House』でのシューゲイザーというか、マイブラの採り入れ方も格好いいです。ニューゲイザーのバンドって、なんかマイブラを誤解しているんですよね。マイブラ本「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン Loveless」でも語られていましたが、マイブラが出たとき、その当時の人間が思ったのは、ついにイギリスからも、ソニック・ユースのような力強いバンドが出てきたという喜びだったんです。ダイナソーJrだろうが、バットホール・サーファーズだろうが、アメリカのバンドはみんな音もリズムもすべてハードだったんです。その強さを〈アメリカの狂気〉って感じたりしていました。

でも、イギリスのバンドも、そんなに弱っちい感じじゃなかったんですよね。キリング・ジョークやギャング・オブ・フォーは、アメリカのどんなバンドよりも強かったし、初期の頃はキリング・ジョークのような音を出していたコクトー・ツインズなんかも力強かったんだよな。ヴォーカルのエリザベス(・フレイザー)なんか、ジューダス・プリーストみたいに、胸を叩きながら歌っていましたからね。こちらもよかったら動画で確認してみてください。そんなイギリスのバンドが、なんでシューゲイザーと呼ばれるひ弱な人たちとなってしまったのか、悲しいです。でもホラーズはそんなことないです。強いす。そういうところが好きです。ファリスはピート・タウンゼントと同じ鼻しているから、ピートと同じ狂気を持っていますよ。

まず、“Still Life”にぶっ飛ばされましたが、3枚目『Skying』もやっぱかっこいいです。『Primary Colours』における、音の奥にある精神異常者のような緊張感はなくなったというか、完全に自分たちでコントロールできるようになった感じがします。その感じが恐いです。奥に何を秘めているのか、まだ、そんなに聴いていないのでわかりませんが、とにかくいろんな秘密、仕掛けがありそうです。みなさんもチェックしてみてください。僕がいま言えることは、いちばん格好いいバンドの、いちばん格好いいアルバムというくらいのことです。