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『ジャズ・フォー・ジャパン~東日本大震災被災者支援CD~』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/07/08   16:59
ソース
intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)
テキスト
text:上村敏晃

JAZZ FOR JAPAN
日本のためのジャズ

東日本大震災の被災者支援のために、米国在住のジャズ・ミュージシャンが立ち上がった。その行動は早い。3月23、24日の両日、彼らはチャリティ・アルバムのレコーディングを行ったのだ。その収益の一部は、赤十字を通じ、被災者の方々に寄付される。…今回のプロジェクトの音頭を取ったのは音楽プロデューサーであり、レコード会社CEOでもあるラリー・ロビンソンだ。彼は、震災直後、会社のスタッフと深刻な被害状況について話していて、「ジャズという音楽を日本が長年にわたって支え続けている」ことに思いが至り、何とか力になれないだろうかと、アルバム制作のアイデアが浮かんだそうだ。そして、彼は思いつく限りのL.A.在住のトップ・ミュージシャンに声をかけまくった。すると、スケジュールの都合がつかないミュージシャン以外は皆賛同し、参加を表明したという。

集まったメンバーが豪華だ。クリスチャン・マクブライドをはじめとする凄腕のリズム陣がズラリと居並ぶほか、ホーンもピアノもギターも多士済々の顔ぶれである。アルバムは2枚組で、演奏曲目は《シュガー》《ミスターPC》《インヴテーション》など、全14曲。彼らは手短な打ち合わせとリハを済ませ、一発録りのレコーディングに入っていったそうだが、ほとんどがワン・テイクで「OK」が出たとのこと。このあたりは、さすがトップ・ミュージシャンの集中力を研ぎ澄ましたレコーディングだ。筆者は、まずは《ソー・ホワット》などでのスティーヴ・ガッドのジャズ・ドラミングとそこに絡んでいくネイザン・イーストのベース・プレイに聴き惚れたが、他にも、ピーター・アースキンやマーカス・ミラーをはじめとする、このアルバムに参加したリズム系プレイヤーの演奏には、レベルの高いトラックが多い。そして、そのリズムに鼓舞されるように、フロントに立つプレイヤーが見事なソロを繰り広げている。また、この人がこんな気合いの入ったソロを…、と驚くような演奏にも出会える。さらには《カンタロープ・アイランド》の、ラテンとジャズのリズムが交錯しながらの刺激的な躍動。《この素晴らしき世界》の温かな心持ちがあふれる演奏。《シュガー》でのサックスとギターの味わい深さ。《身も心も》など、スタンダード曲での出色のバラード演奏。最後に特筆しておきたいのがビリー・チャイルズだ。彼のピアノ演奏に感じられる知性のひらめき、音楽性の豊かさは、このアルバムの大きな聴きどころである。