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『タクシードライバー』『スタンド・バイ・ミー』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/07/13   17:25
更新
2011/07/13   20:50
ソース
intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)
テキスト
text:吉川明利(タワーレコード本社)

80年代の名作が、HDデジタル・リマスター版ブルーレイ化! 一般的にアメリカン・ニューシネマの始まりは1967年に、『俺たちに明日はない』が公開された瞬間からと言われているが、その終わりは、明確にはなっていない。人によっては1972年の『ゴッドファーザー』が登場した時点で、すでに終わっていたと言うし、1978年の『ディア・ハンター』を最後とする人もいる。しかし1976年の『タクシードライバー』で終焉を迎えたとするのが、最も一般的なアメリカ映画史の見方だろう。なぜなら、翌年にはあの『スター・ウォーズ』が公開され、ハリウッドはお祭り騒ぎとなり、能天気な80年代に向う準備を始めてしまったからだ。


映画の舞台となるニューヨークは、現在のように観光地化されておらず、犯罪とSEXの街であった。これが重要なポイントで、トラヴィスという青年の孤独と狂気を誘発したのは、実はこの街であるといっても過言ではないのだ。逆に言うと、今のニューヨークではジョディ・フォスター扮する、12歳の娼婦も含めてあり得ない話なのである。監督のマーティン・スコセッシは一作品前の『アリスの恋』に出ていたジョディが気に入ったのだろう。そして、その才能を認め、当時13歳の彼女に、アイリスという重要な役を与えて『タクシードライバー』を成功(もちろんロバート・デ・ニーロが居てこそだが)に導いたのだった。


それからちょうど、10年後に登場したのが『スタンド・バイ・ミー』。その10年間でハリウッドは大きく変貌を遂げていた。もう70年代のように悲観的に後ろを振り向かない、振り向くのだったら、明るく幸せな瞬間だった時を語ろうとし出したのだ。その代表作が1985年の 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と、この映画ということになる。共に1950年代へのノスタルジーだ。少年4人が森の中の死体探しの冒険小旅行へ行くという物語。ホラー作家スティーブン・キングの非ホラー作品として有名となった。ノスタルジーを象徴する形で奏でられるのが、リバイバルヒットとなったベン・E・キングの同名主題歌である。80年代のほとんどの映画は、音楽が重要な役割を果たしたのだった。