いやいや、すごいですよ。アフロ=ラテンの傑作
90歳のマイルスと思い込んで、聴き始めてすぐ、今年80歳を迎えた故マイルスとはまったく関係ないことに気がついた。表題はもちろん、距離のことだ
ヴァイブラフォンのステフォン・ハリス、サックスのダヴィド・サンチェス、トランペットのクリスチャン・スコットというメンバーが、キューバに赴き、現地の若手とアルバムをレコーディングしたという、そのご苦労がこのタイトルに表現されているのだろうか。いまや、ジャズにアフロ=ラテンカルチャーが深くにじんでいることを再発見する必要を謳うレトリックなんていらないと思う。
しかし、ダヴィド・サンチェスはいうまでもないが、アフロ=ラテン・マナーのジャズに深くコミットしているミュージシャンがアメリカにはたくさんいるという端的な事実を、日本のジャズジャーナリズムが積極的に紹介することはなかった。だからなのだが、たとえば、この手のジャズの名盤であること間違いないゴンサロ・ルバルカバの『化身/アバター』は、まったく評価されることもなかったし、ゴンサロのあたらしい音楽を生む力となったヨスヴァニ・テリーの『Metamorphosis』も、日本では存在していないかのようだ。さらにこのような排除が結局、アフロポリリズムに根ざす菊地成孔のDCPRGや、Pepe Tormento Azucararの音楽を括弧付きでもジャズとしてまったく評価されない環境を作ってきた。
このアルバムの一曲目におけるポリリズムのありようには、DCPRGの《構造1》の構成原理と同じものを感じ取ることが可能だし、ミニマルとしか評価されない可哀想なスティーヴ・ライヒの《Octet》に聴こえる西アフリカの音楽のモントゥーノ化 (?)にも相通じる律動がある。他にも、ゴンサロ・ルバルカバが開いたラテンジャズの可能性が、さらにもっとポップに開いた秀作がずらりと並ぶ。初期ウエザーリポートにまで戻ってジャズとアフロ=ラテンを構築し直した『化身/アバター』に続く、これは傑作といって、たくさんの人に買わせたい!といったらだめかな。