言葉と音楽との新しい形式を求めて 人間のコミュニケーション手段としての言語の起源は、音楽 (歌)であったと言われる。スティーヴ・ライヒの《スピーチ・メロディ》のように、インタヴューなどの話し言葉のイントネーションからメロディやリズムを抽出する作曲手法は、言語、話し言葉が内に持っているその原初的な形態を垣間見ようとするものでもあるかもしれない。また、ポール・デマリーニスが言う「第二言語としての音楽」とは、言葉やメロディの中にそのふたつが未分化な状態としてあった原言語(proto language)を想像し、それを聴きだすことだった。
イーノの【Warp Records】移籍後の2作目となる本作は、この数年のイーノの活動における新たな試みを行なっている。アンビエントやエレクトリック・ジャズ路線から、自身のヴォーカルをフィーチャーし話題となった『Another Day on Earth』、そして「音のみによる映画」(sound-only movies)を標榜した前作。そして、今作ではリック・ホランドの詩を用いて、言葉と音楽との関係性を歌という形式ではなく、どのように新しく構築できるかということを試みている。ホランドの詩とイーノのサウンドとは、それぞれ互いにインスピレーションを与え合い、ひとつのイメージをつくりあげる。それはさまざまな属性を持った読み手によって読まれ、細かな読まれ方までを含めた形でコンポーズされている。
これまでのイーノの作品には、話し言葉や朗読がコラージュされ、リズムやメロディの要素となっている作品は少なくはない。バーンとの『My Life in Bush of Ghosts』にもそれは顕著である。しかし、この作品では、読み手の個性、声質だけではなく、英語がネイティヴではない人々の母国語に由来する訛りなどが作品として分ちがたく結びついている。さらにデジタル技術による言葉の可塑性の自在さが、表現の幅を広げることができるとイーノは言う。