ビ・バップの時代を思い起こさなくても、本来ジャズというものはそうであったはずだが、この3人の巨匠+1人の若手ピアニストからなるクァルテットのライヴは驚くほどスリリングかつ濃密だ。レコーディングが行われた2009年の時点で、リー・コニッツが82歳、ポール・モチアン79歳、チャーリー・ヘイデン72歳と書くと、ブラッド・メルドーの39歳という年齢はまるで青少年。そしてこの日のライヴはノーリハーサル、ノーサウンドチェック、ノーセットリスト。つまり、ぶっつけ本番、出たとこ勝負だった、故にひじょうにスリリングであり、しかも出たとこ勝負の〈勝負している感〉が極めてリアル。こういう青い炎が静かにチロチロと燃えているような、ヤバゲなライヴは本当に久々という気がする。
ブラッド・メルドーのレギュラー・トリオも、いつもグレードの高い演奏を聴かせてはくれるけれど、スリリングかと言われれば、「ちゃんとリハーサルしてい ますよ」的な、実にまとまりのいい演奏、というかまとまりすぎ。これはメルドーだけの問題ではなく、ジョシュア・レッドマンも、ジェームス・カーターも、 ケニー・ギャレットも、私に言わせれば最近の若い優秀な子はみんな練習のし過ぎという感じで、完成度の高さは立派なものだがどうにもスリルに乏しい。「いまどきの若いモンはほんとに上手いんだけどね」と、年よりじみた文句のひとつも言いたくなる。そこへいくとこのアルバムに聴く4人の演奏は本当に凄い。コニッツの演奏に至っては妖怪の如き〈ヤバイ〉感じが漂いまくっている。有名な6曲のスタンダードのメロディの周りを、付かず離れずの脱力モードでウネウネ と徘徊するが如きアドリブ・ソロは、枯淡の境地か、はたまた恍惚の人状態か。とにかく凄いとしか言いようがない。全員が魂のレベルで共鳴し合って、見事な までの以心伝心ぶり。加えて録音も特筆もので、その空気感たるや実に濃密と、もう買うしかないでしょう。