ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔 週コラム。今回は、UKロック・シーンの語られざるレジェンド、ドクター・フィールグッドのドキュメンタリーDVD「オイル・シティ・コンフィデンシャル」について。セックス・ピストルズやジョー・ストラマーの生き様に迫った監督、ジュリアン・テンプルによって初めてあきらかにされた真実とは――?
このドクター・フィールグッド「オイル・シティ・コンフィデンシャル」は、セックス・ピストルズ「ノー・フューチャー・ア・セックス・ピストルズ・フィルム」、ジョー・ストラマー「ロンドン・コーリング ザ・ライフ・オブ・ジョー・ストラマー」に次ぐジュリアン・テンプルのパンク・シリーズ第3弾か、それとも「グラストンベリー」も入れて〈イギリスとは何ぞや〉シリーズ第4弾とすべきか悩んでしまうけど、外してませんね。
「スモール・フェイセズのようにロンドンを歌ったバンドはないのか」とみんなに訊き回って、初期のセックス・ピストルズをフィルムに収めていた男だけのことはある。ジュリアン・テンプルの音楽ドキュメンタリーは間違いないです。現在の彼の〈わかっている感〉を思うと、「ビギナーズ」はなぜあんなに大外しをしたのか謎です。
ドクター・フィールグッドとは何ぞや、ということをこのDVDは教えてくれてます。それが本当にワクワクさせてくれるのです。いまバンドをやろうと思っている人たちには、この彼らの物語は凄いお手本になるんじゃないでしょうか。
ドクター・フィールグッドの出身地・キャンヴェイ・アイランドが埋め立て地で、しかも、ドクター・フィールグッドのメンバーが子供の頃、洪水で町が浸水してしまったなんて知らなかった。そして、その歴史がドクター・フィールグッドを凄いバンドにしたという話の持っていき方、かっこいいです。
不謹慎ですが、東北からも凄いバンドが出てくるのかなと思ってしまいました。いや、出てきてほしいです。あの事故以来、僕は福島から凄いバンドが出てきたらいいのにとずっと妄想しています。
というわけで、このDVDは僕にとってはとってもタイムリーでした。
もちろん70年代当時も、ぼくは彼らこそがすべてのパンクのルーツだと思っていたし、ドクター・フィールグッドのことは研究しようと考えていたので、ジュリアン・テンプルがこの映画を作ったのには衝撃を受けました。
音も凄くいいです。まだCDと比べてないので、どれくらいいいのかわからないんですが、ドクター・フィールグッドのボトムの効いた感じがよく出ていると思います。隣から苦情がこないように、音の大きさを音楽に合わせると喋っている声が小さくって、何を言っているのか聞きづらいのがちょっと難点です。でも、すごくいい音だと思います。
ドクター・フィールグッドと言えば、ウイルコ・ジョンソンのあのギター、って感じなんですが、いま僕はリズム隊に凄く注目しています。特にジョン・B・スパルコのボトムの効いたベースが最高です。あんな音はギブソンのリッパー・ベースかグラバー・ベースでしか出ないのかなと思っていたんですが、初期の頃は普通にフェンダーのプレベ(プレシジョン・ベース)を弾いていたので、あの音はプレベなんですかね。やっぱ低音出すとしたら、プレベですかね。
リッパーやグラバー・ベースと言えば、ジーン・シモンズとディーヴォでしょう。ディーヴォのあの永ちゃんベースはリッパー・ベースの尖った部分を切って丸くしているのです。
ディーヴォのベースの音もなかなかファンキーでした。当時、初作『Are We Not Men? We Are Devo!』の“Mongoloid”のあのベースがディスコでかかったらキチガイみたいに踊ってました。かっこいいので、よかったら聴いてみてください。スパルコのベースの音とも似てますよ。ドクター・フィールグッドで儲かった金で作られたスティッフ・レコードから、ディーヴォはデビューしたんですよ。
このDVDにはスティッフ・レコードの創始者の一人であるドクター・フィールグッドのツアー・マネージャー――元エルヴィス・コステロのマネジャーでいまはニック・ロウのマネジャーをしているジェイク・リヴィエラも出てきますね。これだけでも観る価値ありかも。ほとんどロンドンのギャングです。本物です。本物、恐いす。でも、こういう人たちがイギリスの音楽シーンを作ってきたのです。リスペクト。
話が逸れてしまいました。この「オイル・シティ・コンフィデンシャル」でも、ドクター・フィールグッドに影響されたギャング・オブ・フォーのアンディ・ギルが、リズム隊の凄さについて語っています。ぼくもドクター・フィールグッドのことをもっと話したいんですけど、それはみなさんがこのDVDを観てから、みなさんと語りたいです。
最後に僕とウイルコ・ジョンソンのいちばんの思い出を書きます。僕がウイルコに「俺、全然『ニューロマンサー』の良さがわからないんだよね」って言ったら、ウイルコがあのサイバーパンクSFの傑作「ニューロマンサー」の有名な出だし〈港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった〉を朗読してくれたんです。で、「(ウィリアム・)バロウズみたいでいいんだよ」みたいなことを説明してくれました。僕はそれを聴きながら、元英語(国語)の先生だったウイルコに英語を習いたかったなと思いました。このDVDでもウイルコお得意の詩の朗読が出てきます。あれからもう何十年も経ってますけど、ぼくはまだ「ニューロマンサー」の原書を読んでいない。今年こそは読んでみようと思っています。