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第29回――踊るロックに物申す!?

再発先生奇談

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2011/07/25   19:10
更新
2011/07/25   19:28
ソース
bounce 334号(2011年7月25日発行)
テキスト
文/内山田百聞


続々とリイシューされる幻の名盤や秘宝CDの数々──それらが織り成す迷宮世界をご案内しよう!



私は内山田百聞。売れない三文作家であるが、道楽のリイシューCD収集にばかり興じているゆえ、周りからは〈再発先生〉などと呼ばれている。

猛暑に耐えかねた私は、伊豆半島の小さな港町に滞在しながら執筆を続けていた。気晴らしに砂浜へと散歩に出掛ける。BGMは伝説的なサーファーのコーキー・キャロルが71年にリリースした『Laid Back』(Rural/EM)だ。まさに元祖オーガニック系ともいえる穏やかな演奏が心地良く、潮風が似合う逸品である。

真昼の白い浜辺をしばらく散策していると、波打ち際にガラス瓶を見つけた。手に取ると中に手紙が入っているではないか。私はすぐに栓を抜き手紙を広げた。

「流石の俺ももうダメかもしれん。それにCDウォークマンの電池が残りわずかだ。最期に聴くのは何が良いだろう。ゲイリー・カッツのプロデュースでスティーリー・ダンの2人も参加した、美人モデルのロジー・ヴェラによる86年のアーバン・ポップ盤『Zazu』(A&M/Cherry Red)かな。彼女みずからが全曲作曲した唯一の作品っていうのがそそるぜ!

 

それともUSのフォーキー・デュオ、バトウの73年作『Batteaux』(Columbia/ヴィヴィド)か。浮遊感のあるアコースティック・グルーヴが洒脱な一枚だが、何より海中の神秘的なジャケが良い。だが、俺ももうすぐ海の藻屑となるのかだな……もうインクも出ないし……アディオス」。

何だ、この手紙は。首をかしげつつ辺りを見回すと、少し先にも同じような手紙入りのガラス瓶が打ち上げられていた。

「この島に来てどのくらい経っただろう。沖を眺めても一向に船影は見えない。まあ、いままで幾多のピンチを乗り越えてきた俺だ、心配はしてない。それにウォークマンと何枚かのCDが無事なのが嬉しい。昨日はニール・ヤングのお蔵出し音源『Live In Chicago 1992』(Immortal)を聴いた。アコギの弾き語りだけに、ヤングの歌声が生々しくて実に泣ける。沁みる。

もっとも、俺の状況をヤング作品で例えるなら『On The Beach』だけどな。 で、今日聴いたのはダウンライナーズ・セクトの復帰作『Showbiz』(Raw/Indigo/Trojan)だ。79年発表なのに60年代の全盛期と変わらないゴリゴリのブリティッシュ・ビートが炸裂していてカッコ良すぎる! 俺もこんなふうに凱旋したいもんだぜ!」。

私は海の向こうの遠い彼方を眺めた。南風が強まっている。さらにしばらく海岸を歩き続けると、またしても煌めくものを見つけた。それはやはり手紙入りの瓶だった。

「俺の名は北千住啓。リイシュー専門のお宝ハンターだ。まさか船が沈没するとは思ってなかったぜ! どうにか無人島に漂着して3日目、退屈なので手紙を書いてみた……」。