ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ 〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔 週コラム。今回は番外編として、先週末に〈急逝〉という衝撃のニュースが報じられたUKの歌姫、エイミー・ワインハウスについて。世界一のシンガーになれたはずの彼女は、僕たちの人生を増幅して見せてくれていたのだ――。
みなさん、〈グリー 踊る♪合唱部!?〉は観たことがありますか? 音楽ファンだったら、〈グリー〉は観たほうがいいすよ。アメリカのポップ・ミュージックの偉大さに感動させられます。
映画ファンだったら、〈グリー〉の〈シーズン1〉の第1話は絶対観たほうがいいです。アメリカの脚本家の素晴らしさに叩きのめされます。この1話だけで、〈グリー〉のあの濃厚なキャラクターを無駄なく見事に説明しています。
〈グリー〉の自虐的なギャグはイギリスっぽいんですけど、アメリカのエンターテイメントがいまもいちばんだと教えてくれるのが、〈グリー〉です。
でもね、そんな〈グリー〉のなかでいちばん最初に使われた曲はエイミー・ワインハウスの“Rehab”だったんです。主役たちが歌う曲じゃなかったのですが、しかし、ライヴァル・チームの凄さを見せつけるために選ばれた曲だけあって、アメリカ・エンターテイメントの選りすぐりの人たちが、エイミー・ワインハウスの曲を認めているということが感じられて嬉しかったです。そして、改めて“Rehab”という楽曲の良さを思い知らされました。
本当のことを言うと、〈グリー〉で久々に聴くまで“Rehab”がスタンダードになるくらい良い曲だとは思っていませんでした。もちろん、自分がアルコール中毒の治療に行くか、行かないかという話だけで、こんなポップスを作るなんて、かっこいい。自分の体験を曲にする――これこそが、エディット・ピアフからビートルズ、ニルヴァーナ、ジェイ・Z、レディ・ガガまで延々と受け継がれるポップスの本道なのだ、とは思っていたのですが。
いま、エイミー・ワインハウスの死を前にして思うのは、本当だったら、彼女は世界一のシンガーになれていたはずなのに、ということです。
エイミー・ワインハウスの衝撃は、もうビリー・ホリデイやエディット・ピアフのような人は出てこないだろうと思っていた時期に、突然現れたことです。
そして不謹慎ですが、ピート・ドハーティの苦しみを見るのもいいですけど、女性のほうがやっぱり切なさがあっていいなと思っていました。
でも、これって、僕たちの人生を増幅して見せてくれていただけなんですよね。僕たちの鏡みたいなものです。
いま、僕たちにできることって、彼女の2枚のアルバムをもう一度ちゃんと聴き返すくらいのことです。『Back To Black』の“You Know I'm No Good”のサビ〈自分でわかってたように、私は自分に嘘をついていた。あなたに言ったでしょう。私は問題を抱えているって、私はよくないって〉を聴くと、泣いてしまいます。
P.S. ライヴDVD「I Told You Was Trouble : Live In London」のおまけドキュメンタリーもいいです。タクシー・ドライバーのお父さんが、エイミーゆかりの地へ連れてってくれます。
※AMY WINEHOUSE 『Back To Black』のインタヴューもこちらからお読みいただけます。