プレフューズ73の新作で回り出すヘレン・ウィール
ヒップホップとIDMを繋いだチョコレート・インダストリーズの忘れ難いコンピ『Rapid Transit』で脚光を浴びた2000年の冬、それに少し先駆けたワープ発の『Estrocaro EP』でプレフューズ73がデビューしてから10年以上の年月が経った。これまでに7枚のオリジナル・アルバムを世に出し、モス・デフ&ダイヴァースとの“Wylin Out”やスクール・オブ・セヴン・ベルズとの『The Class Of 73 Bells』を含む多くのEPも発表してきた彼——ギレルモ・スコット・ヘレンは、それに留まらない複数の名義を使い分けながら多彩な活動を展開している。現在はエプスタインとのユニットに発展しているサヴァス&サヴァラスをはじめ、懐かしのデラロサ&アソラやピアノ・オ−ヴァーロード、アーマッド・ザボ、近年のプレディケイト・プロダクション・ギルド、ダイアモンド・ウォッチ・リスツ……下掲した現在入手可能な作品(の一部)だけを見ても、彼のアヴァン・ヒップホップ精神が単なる実験に陥らず、グローバルなサイケデリア復興やドープトロニカ、サウダージ再考といった領域に道を拓いてきたことがよくわかるだろう。
そして今回、ヘレンいわく「自分にとっても異質な作品」だというプレフューズ73の新作『The Only She Chapters』が登場した。コンセプトは〈女性的なアルバム〉ということで、惜しくも1月に他界したトリッシュ・キーナン(ブロードキャスト)をはじめ、ゾラ・ジーザス、マイ・ブライテスト・ダイアモンドのシャラ・ウォーデン、ノーバディとブランク・ブルーを組むニキ・ランダら7名の女性ヴォーカリストが参加。ここしばらくの現代音楽への傾倒や近年の他名義で顕著なアコースティック感覚を穏やかに調和させ、優美なサウンドスケープを紡ぎ出している。彼の音楽地図にまた新たな大陸が描き加えられそうだ。
▼『The Only She Chapters』に参加した女性たちの関連盤を一部紹介。
左から、ブロードキャストの2005年作『Tender Buttons』(Warp)、ゾラ・ジーザスの2010年作『Stridulum II』(Souterrain Transmissions)、マイ・ブライテスト・ダイアモンドの2008年作『A Thousand Shark's Teeth』(Asthmatic Kitty)、ブランク・ブルーの2007年作『Western Water Music Volume II』(Ubiquity)