SBTRKTってNNMNDSK?
南方に住む民族が儀式や宴で付けていそうな鮮やかな彩りをした、人とも動物とも判別のつかないマスクを纏った覆面男、サブトラクト。何も隠しているのは顔ばかりではなく、その経歴もヴェールに包まれている謎の人物だが、ダブステップ以降のUKクラブ・シーンで一躍時の人となっている。とはいえ、一朝一夕にいまの彼があるわけではなく、過去には豊富なキャリアもあるようだ。しかしミステリアスな部分を残したほうがおもしろいので、ここではあえて触れないでおこう。
彼の名が世に知れ渡たるきっかけとなったのは、2009年に自主レーベルから12インチ・シングルで発表したレディオヘッド“Everything In Its Right Place”のリミックス。“Right Place”という名で世に放たれたこの曲は、アトモスフェリックなオリジナルをウォブリーなベースラインのダブステップに仕立てたもので、時代の潮流も手伝い、同曲が話題を集めることに時間はかからなかった。同年にはやはり自主でゴールディー“Inner City Life”のリミックスを“Timeless”と題して発表している。当然のことだが、サブトラクトの登場は音楽業界でもちょっとした騒ぎになり、そのことはジャイルズ・ピーターソンの耳にも入ることへ。こうしてジャイルズのラジオ・プログラム〈Worldwide〉への出演も実現し、急加速でサブトラクトの名が拡散する運びとなった。
2010年に入ると、シンデンとコラボしたバウンシーなエレクトロ・ハウス“Midnight Marauder”、コズミックなシンセをフィーチャーしたダブステップ“Laika”、ガラージの進化系“Break Off”、怪しげな魅力を放つ秀逸なPVも評判のフューチャー・ソウル“Look At Stars”など、決定打となる曲を次々とリリースしている。それと並行してベースメント・ジャックス、M.I.A.、ジーズ・ニュー・ピューリタンズ、タイニー・テンパー、アンダーワールド他、オフィシャルのリミックス依頼が舞い込んでいることも、彼がいかにトレンドの最前線にいるかの証明となろう。そして2011年、ヤング・タークスから待望のデビュー・アルバム『SBTRKT』をリリースする。
「ソングライティングとコラボレーションをコツコツ続けてきた、その集大成さ。これまでにリリースしたEPのトラックはどれも単発的だったけど、このアルバムに関しては一つのプロジェクトとして取り組んだ。結果アーティストとしての俺自身の考え方やアイデアをより的確に表現していると思う」。
ライヴも含め、彼の大切な相棒であるシンガーのサムファをメイン・ヴォーカルに据え、ユキミ・ナガノ、ジェシー・ウェア、ローゼズ・ゲイバーを起用したアルバムは、ダブステップやガラージの流れを汲んだソウル・アルバムとして楽しめる作品となった。そのなかにはテクノ、ブロークンビーツ、エレクトロニカ、ポップスの要素も丁寧に織り込まれ、誰にとっても未来的で新鮮と感じる音に出会うことができるだろう。
▼ユキミ・ナガノが在籍するリトル・ドラゴンの2009年作『Machine Dreams』(Village Again)