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第28回――PINK

連載
その時 歴史は動いた
公開
2011/09/17   18:06
更新
2011/09/17   18:06
ソース
bounce 335号 (2011年8月25日発行)
テキスト
文・ディスクガイド/久保田泰平

 

 

原宿の歩行者天国がアマチュア・バンドたちのパフォーマンスによって活況を呈し、その余勢を駆る形でTV番組「三宅裕司のいかすバンド天国」が放送開始——バンド・シーンのホット・スポットがあきらかに変わりはじめていた80年代の終わり、ひとつのバンドがその活動を凍結させました。彼らの名前はPINK。ヒット・シングルこそありませんでしたが、卓越したプレイヤビリティーと独創的な世界観を持つサウンドは洋邦の垣根を越えて支持を集め、水面下に近いポジションながら〈歴史を動かすほど〉のパワーを持つものだったのです。

結成は83年。メンバーは、近田春夫を擁したビブラトーンズの福岡ユタカ(ヴォーカル)と矢壁アツノブ(ドラムス)、後に〈早すぎた渋谷系〉とも言われたショコラータの岡野ハジメ(ベース)と渋谷ヒデヒロ(ギター)、爆風スランプの前身として知られる爆風銃のホッピー神山(キーボード)とスティーブ衛藤(パーカッション)による6名(88年には渋谷に代わって逆井オサムが加入)。84年にシングル  砂の雫  でデビューし、翌85年5月にファースト・アルバム『PINK』を発表。個性的なバンドでの前歴に加え、スタジオ・ミュージシャンとしてのキャリアも華々しかった彼らの音楽は、それぞれのルーツがわかりやすく確認できないぐらい昇華されたもので、奥深い音楽性と共にポピュラリティーを孕んだメロディーセンスも持ち得ていたところなどは、アンダーグラウンドで活動する前衛的なロック・バンドとは一線を画すものでした。ニューウェイヴやファンクに加えてアフロやラテンなどワールド・ミュージックのエッセンスを散りばめながらも、〈まさにそれ〉な形容があてはまりにくい彼らの音楽は〈無国籍サウンド〉と呼ばれ、86年には12インチ・シングル  SOUL FLIGHT  がイギリスでリリースされるなど、その個性は海外からも注目を集めました。

89年の凍結までに、5枚のオリジナル・アルバムを残したPINK。そのポテンシャルの高さからすれば、後世にもっと名が通っていてもおかしくないバンドではあるのですが……バンドとはいえ、いま以上にルックスがモノを言っていた時代。氷室京介やNOKKOのように、地方の中学生にも訴求するアイドルがメンバーのなかにいなかったことはバンドの存在を地味にした理由のひとつではあるだろうし、前述のようにカテゴリーにあてはめにくい音楽性は、まだまだ芸能界体質が根強く残っていた音楽業界で〈売り物〉にするのが難しかったということなのでしょう。しかし、言い換えれば、時代の先を行っていたとも。ライヴの重要性が富みに増し、リスナーが〈生きた〉音楽をより求めているいまこそ聴かれるべき音楽だと言えます。オリジナル・アルバムの復刻も切に願いたい。

 

PINKのその時々

 

PINK 『ゴールデン☆ベスト PINK ULTIMATE』  ワーナー

後期ロキシー・ミュージックのアーバンなマインド、XTCのファニー感、ジャパンや80sボウイのファンクイズム——このバンドが内包している音楽性はさまざまだが、〈これまさに!〉がひとつもないのもこのバンドの魅力。いま聴いても80年代メジャー邦楽ロック特有のヤングネスは皆無。今回久しぶりに編まれたベスト盤で窺い知ることができる魅力はほんの一部だが、それでも未知の世代にとっては衝撃かと。

大沢誉志幸 『TraXX -Yoshiyuki Ohsawa Single Collection』

一部のメンバーをツアー・バンドに迎えるなどPINKとの縁が深かったソウルマン。シック、プリンスあたりのファンクイズムを放り込んだ“彼女は future-rhythm”、同曲収録のアルバム『in・fin・ity』、さらに作詞家・銀色夏生とのコンセプチュアルな一枚『LIFE』ではホッピー神山が好プロデュース。

POLYSICS 『BESTOISU!!!!』 キューン

L'Arc〜en〜Cielからベッキー♪♯まで、岡野ハジメのプロデュース作品は数あれど、ニューウェイヴをルーツとしながら肉体的なサウンドを聴かせるPOLYSICSには彼仕込みのPINKイズムが。共作が縁で市販モデルのベースをプロデュースしたり、同じ特撮好きのハヤシと意気投合するなど、岡野自身も収穫ありだったようで。

KIMONOS 『KIMONOS』 EMI Music Japan(2005)

ZAZEN BOYSを初めて聴いたときにはふとPINKを思い出したものだが、KIMONOSを立ち上げた際に向井秀徳とLEO今井がセッションした楽曲のなかにはPINK“DON'T STOP PASSENGERS”もあったとか。和のテイストを匂わせながら刻む独創的なグルーヴ――そんなKIMONOSもやはり、無国籍な音楽だ。

 

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