ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、底抜けに明るいニュー・アルバム『La Liberacion』を完成させたCSSについて。僕が彼女たちを大好きなのは、僕が理想とするニューウェイヴをやっているからじゃなくて――。
CSSが大好きだ。何で大好きかというと彼女らは、僕が理想とするニューウェイヴをやっているからだ、と思っていたんだけど、この3枚目『La Liberacion』を聴いて、ちょっと違うかなと思っている。
それは前作『Donkey』を聴いた時にもう、気付き出していた。『Donkey』の“Rat Is Dead (Rage)”は凄いいい曲なんです。暴力をふるう彼氏を殺す歌なんですけど、それを映画のワンシーンのように描いています。そして、映画のワンシーンなんですけど、すごくいろんなことが伝わってきます。殺人はいけないことですが、そうして自由になるしかなかったとか、これはフェミニズムの歌なんだとか。
こんなことを思わせてくれる人は、僕にとっては浅井健一さんしかいないです。浅井さんの曲は全部そうなんですけど、たとえば“ロメオ”なんか完全にそうです。
わたぼこりの帽子とあい色のシャツを着たロメオが、グリースのついた手をビニールパンツにこすりつけて、〈悲しみが嫌いだったら、気のぐれた振りをすればいいし〉と言う。そして、〈リムジンに火をつけて踊ろう、パーティーは永遠に続く〉と言う――。
ねっ、映画のワンシーンみたいでしょう。何で悲しみが嫌いなのか、何でリムジンに火をつけるのかわからないけど、すごく伝わってくるものがあるでしょう。でも、ベンジーさん、いま初めて気付いたんだけど、僕、ロメオは〈ビリーのパンツ〉で手を拭いていたと思ってましたよ。なんかそっちのほうがよくないすか? もし“ロメオ”を歌うことがあったら、そっちにしてほしいです。
そして、CSSの待望の3作目『La Liberacion』の“Hits Me Like A Rock”もそんな映画のワンシーンを思い出す曲です。ラヴソングを装っていますが、ずっと戦ってきた仲間との思い出を歌っているような感じです。それがCSSなのか、革命なのか、自由でいようということか、仕事なのか、何なのかわからないですけど、それを歌という単語に変えているんですよね。
ずうっと聴いてきた歌がある。その歌を一人で口ずさむと気持ちよくなる。いろんなことがあった後でも、元気にしてくれる。それがなぜななのかわからない。あなたのバイクで連れてって。この丘を走ろう。何が正しいとか、どうでもいいの。あなたといっしょにいたい。でも、あなたは〈私たちはいつもギリギリのところで負ける〉と言う。それは悪いことかい――。
なんか、ジーンときますね。映画「勝手にしやがれ」で主人公のカップルが盗んだ車で逃げていく、あの光景が目に浮かぶようです。しかもプライマル・スクリームのボビー・ギレスピーとデュエット。CSSの歴史も知ってます。『Donkey』を作る前くらいに、マネジャーに全部のお金をもって逃げられた。“Hits Me Like A Rock”を聴いていると、彼女らの、ちょっと疲れちゃっているけど、まだまだやるわよという心意気が伝わってくるんですよね。
僕がCSSを聴いて元気になるのは、曲がニューウェイヴとか、そんなんじゃないですよね。彼女らはちゃんと自分が言いたいことを持っているんですよ。パンクに影響されたランナウェイズ、スリッツ、ゴーゴーズなどの女の子バンドはみんな言いたいことがちゃんとあったんですよね。特にランナウェイズやゴーゴーズは、ロックの世界ではマイノリティーなのに、レズビアンの気持ちもしっかりと歌ってくれていました。そういうところに僕は惚れていたんだよな。
CSSもそうです。まだ他の曲がどういうことを歌っているのかチェックしていないですけど、これからちゃんとチェックしたいと思います。みんなも聴いてみてください。けっこういいこと歌ってそうです。