赤ちゃんは自分では選べない!情操を豊かに育て、人生を豊かにする音楽を
人間の感情の本質部分を形成する、大脳皮質のもっと奥深くにある扁桃体という脳機能。ここは無意識の領域であり、ここで人間の情操というものが育つという事を、本作の解説の中の脳研究者である池谷裕二氏の説明で初めて知った。
シンガーの綾戸智恵と池谷氏の対談形式の本作の解説を読み進むうちに、綾戸さんのスウィングする音楽に対する感覚や感性とは、おそらく(幼い頃から)その扁桃体で養われた豊かな情操と無関係ではないのだろうな、という気がしてくるのである。
少し自分の事を書かせてもらえば、僕が、自分がほぼ生まれた後の数年間にヒットした歌謡曲や演歌の歌を大人になった現在も尚随分鮮明に覚えているのも、そういう脳の働きと無関係ではないのだろう。《ソーラン渡り鳥》(作曲・遠藤実作曲/歌・こまどり姉妹)を聴く度に、僕はどうしても毎回涙が自然と流れてしまうのだが、それは、赤ん坊であってもあの歌の持つ哀しみに僕の扁桃体が感応していたからとしか言いようがない。
本作は「赤ちゃんの無意識の領域に、スウィングする音楽のテンポやリズムやメロディというものが、とても豊かな情操を育てるのにとても良いのではなかろうか?」という仮説があって、それを逞しく実践(CDという形にした)したものであるだろう。このCDを聴いて育った赤ちゃんの中から、未来の綾戸智恵や美空ひばりや原信夫などが誕生する可能性だってある(聴かないで育った赤ちゃんよりは、その確率は遥かに高くなるはずだ)だろうし、また、本作に収録されたスウィングする音楽のテンポやリズムやメロディが、その赤ちゃんの情操を豊かに育て、きっとその子は世界のものごとに対して、とても感度良く感応しながら、その事で自分の人生を豊かなものにしていくのではないか? という、そんなわくわく期待したい気持ちを抱かせる素敵な企画であると思う。
赤ちゃんは自分で選択は出来ないのである。《ソーラン渡り鳥》が流れている環境もまあ悪くないな、とは思うが(僕は感謝してます)、こんなスウィングする音楽が流れていて、情操が豊かに育たないはずがないではないか(羨ましいぞ、そんな赤ちゃんが)とも思うのである。