ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、リアル・エステイトのニュー・アルバム『Days』について。心地良く絡み合うツイン・ギターの向こう側に見えるのは、テレヴィジョンの子供たちで――。
リアル・エステイトの2作目『Days』がとっても良い。ピッチフォークで8.5点を取った彼らのファースト・アルバム『Real Estate』は〈気怠いな〉くらいにしか思わなかったけど、今作はギターの音にやられてしまった。
『Days』のギターからは、プライマル・スクリームのデビュー作『Sonic Flower Groove』におけるジム・ビーティの〈何があろうと、とにかく12弦ギターを弾く〉という潔さと同じものを感じた。リアル・エステイトは12弦じゃないけど、コーラスなのか、フェイザーなのか微妙にエフェクトがかかっていて、とっても気持ち良いのだ。2本のギターのアルペジオの絡みも良いし、僕は完全にリアル・エステイトが大好きになった。
本人たちは「フィーリーズが大好き」と言っているけど、僕はフェルトに似ているなと思った。フェルトもローレンスとモーリス・ディーバンクのギターの絡みが気持ち良かった。
どうも僕は、ギターが2人いるバンドが好きみたいだ。そのいちばんのバンドはやはりテレヴィジョンだろう。フィーリーズもフェルトもテレヴィジョンから多大な影響を受けている。トム・ヴァーラインとリチャード・ロイドのギターの絡みを聴いていると天国に行けそうになる。僕はニール・ヤングなリードを弾くトム・ヴァーラインよりも、ちょっと賢そうなスケールを弾くリチャード・ロイドのギターのほうが好きだ。
関係ない話ですけど、子供の頃、〈テレヴィジョンというバンドは一体どこからきたんだろう? 彼らのルーツは何だろう?〉とずっと悩んでいたんですけど、いまは、彼らのルーツはニール・ヤングなんじゃないの?と思っています。あの永遠に続くかのようなリード・ギターも、トム・ヴァーラインの絞り出すようなか細い声も、よく考えるとニール・ヤングですよね。だからか、テレヴィジョンからはどこかブルースの香りがしますよね。サイド・ギターとリード・ギターの絡みというブルースマンな香りが。それも僕は好きですけど。
AC/DCなんか、まさにそれですよね。お兄ちゃんのマルコム・ヤングが後ろで延々と目立たないようにリズムを刻んでいるというか、何をしているのかよくわからないですよね。しかもハード・ロックなのに、グレッチだし。ヤードバーズやローリング・ストーンズなどはみんなこのタイプです。
でも、テレヴィジョンの子供たちというか、トーキング・ヘッズくらいから、ギターのアルペジオの絡みの気持ち良さって、出てきますよね。『More Songs About Buildings And Food』なんかその極地じゃないでしょうか。ギターもメロディー楽器じゃなく、リズム楽器と考えているから、こういうアンサンブルが生まれたんじゃないでしょうか。トーキング・ヘッズがアフリカン・ミュージックに流れていくのがよくわかりますね。
リアル・エステイトは間違いなくテレヴィジョン→トーキング・ヘッズ/フィーリーズ→フェルトという流れの最先端ですが、初期プライマルやコクトー・ツインズやマイ・ブラディ・ヴァレンタインのような、シューゲイズな要素も入って、包み込まれるような新しいサイケ感も出しています。
彼らがこれからどっちの方向に進んでいくのかわからないですが、いまはとにかくかっこ良く気持ち良い彼らのギターを聴いていたいです。