冬の贈り物は、キヨシローの好きなソウル・バラード
忌野清志郎の歌が否応なくリアルに響く時代になった、キヨシローの歌の聴こえ方が前と変わった——そう思っている人も多いことだろう。実際にそうには違いない。
とはいえ、である。そんなにシンプルな話じゃない。キヨシローの歌はいっしょに怒りもするが、いっしょに泣きもするし、思いっきり笑い飛ばしてもくれる。だから、紋切り型に〈反骨のロッカー〉みたいな言い方で片付けられてしまうのだとしたら、あまりにも無念だし、まだキヨシローの歌に出会っていない人からすれば、そんなイメージだけではもったいないじゃないか、と思うのだ。そんなことをつらつら思っていたら、彼の置き土産がリリースされるという。しかも、何とキヨシロー本人の選曲によるバラード・アルバム『sings soul ballads』だ。本人がつけていたというアルバム・タイトルは、もちろん彼が愛したオーティス・レディングの同名アルバムへのオマージュに違いない。
発端はキヨシロー自身が事務所に残していた、バラード・アルバムの選曲リストだったそうだ。彼がリストを書き記していたのは、1年7か月の闘病を乗り越えた武道館での〈完全復活祭〉後、つまり2008年のセレクションだという。しかも、トラックリストも直筆のものがアートワークに採用されている。そのチョイスを再現することで、そのまま本人のセレクションによるスウィート・ソウル・アルバムが出来上がったのだ。
しかもボーナストラックとして、RCサクセションの“500マイル”(初CD化)が収録される。キヨシローと“500マイル”といえば、91年に細野晴臣&坂本冬美と結成したトリオ=HISでの日本語詞ヴァージョンがよく知られているだろう。そのRCでのヴァージョンは、90年のスタジオ・セッションテープ(『BABY A GO GO』のレコーディング前のセッション)のなかから発見されたもので、清志郎は原詞で歌っている。その音源にエンジニアのZAKがトラックダウンを施し、ボーナス収録されることになったというわけである。
もちろん、そういうレアなトラックがあるのはコアなファンにとって嬉しいことに違いないが、それ以上に今回のポイントはヒット・ナンバーから隠れた名曲までを織り交ぜて、新たな入門者にも広く開かれているということだ。
珠玉のバラード群は、もうすぐやってくるクリスマスや年の瀬にもバッチリだと思う。あたりまえのことだが、そんなふうに楽しめるキヨシローもいる。この季節にこそ、この時代にこそ、心に響く歌があるのだ。そう、『sings soul ballads』を聴けば、清志郎は最後のバラードまで側にいてくれる。