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トレゾー20周年記念盤で思う、新旧ミニマル味比べ

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2011/12/02   23:30
更新
2011/12/02   23:30
テキスト
文/石田靖博


長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!



テクノ史上最重要レーベルの一つであるトレゾー(トレゾアと読むのか、トレーザーと読むのかを迷うのが〈テクノあるある〉)が20周年ということで、記念盤としてのミックスCD『Tresor Records 20th Anniversary』が出た。


トレゾーは、もともとアンダーグラウンド・レジスタンス(UR)などデトロイト・テクノをリリースするために設立され、その後もイギリス、アメリカ、日本など世界中のテクノ猛者たちが集うテクノ・メジャーリーグと化して、90年代のテクノ黄金期を支えた偉大すぎるレーベル……というのはテクノ者には常識だが、今回のミックス盤に収録された90年代テクノ・クラシックの数々――警察的に最愛の漢、ジョーイ・ベルトラムをはじめ、ジェフ・ミルズ、ロバート・フッド、ドレクシア、サージオン、クリスチャン・ヴォーゲル、シスコ・フェレイラ(アドヴェント)――を聴くと、やはり90年代ミニマル系テクノといまのそれとの間に変化を感じる。

ここ最近のテクノは、一時期のクリック全盛期を経て、90年代のハード・ミニマル的サウンドへの回帰があきらかに目立つ。その牙城とも言えるのが、オストガット・トン。ここからリリースされたのマルセル・デットマンによるミックス群、かつて90年代ハード・ミニマルを牽引した偉人の一人であるルーク・スレイター(プラネタリー・アサルト・システム)のアルバム、そして現在ディープなミニマル・テック・ハウスで一人勝ち状態であるレディオ・スレイヴのリミックス集を聴くと感じるのだが、最近の〈ミニマル〉は重厚でハードな音であっても、空間を活かした深みのある構造になっているように感じる。それはクリック・ハウスという究極の引き算を通過したから達した境地なのかもしれないし、制作環境も再生環境もデジタル化したからなのかもしれない。

そうしたクールな現行ミニマルと比較すると、90年代のミニマルは熱すぎ、かつ圧すぎで、過剰で濃口なのである。『Tresor Records 20th Anniversary』でも、かつてシンプルの極みに聴こえたベルトラムはいま聴くと異様に押しが強い男味ミニマルだし(“Ballpark”はベルトラム史上1、2を争う名曲!)、クリスチャン・ヴォーゲルの不変の変態ぶりにも感心するばかり。ましてやジェフ・ミルズやロバート・フッド、ドレクシア、変態シカゴ・アシッドの祖=バムバムなど個性の塊のような面々の特濃ぶりは言わずもがな。

今回のミックス担当がディープ・ハウス畑のマイク・ハッカビーなのでまだスッキリしたミックスだが、これもDJによっては特濃なミックスになったはず。例えるなら、現行ミニマルが素材に気を使い、シンプルかつ深みのある味に仕立てたつけ麺なら、90年代ミニマルは化学調味料たっぷり、油もたっぷりで具も山盛りのコッテリ系ラーメンであろう。最近のスッキリ味も好きだけど、身体に悪くてもコッテリ味ミニマルも聴きたいなー、とコッテリ・テクノ世代は思うのであります。



PROFILE/石田靖博


クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラブ・ミュージックのバイイングを担当。現在は、ある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→とうとうリリースされたPerfumeのニュー・アルバムが良いのはあたりまえすぎですが、個人的にはNegiccoが〈アイドルヲタが考えた(ラリー・レヴァンの)パラダイス・ガラージ〉みたいで好きです。