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ウエスト・サイド物語

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公開
2011/12/12   17:52
ソース
intoxicate vol.95(2011年12月20日発行)
テキスト
text:吉川明利(タワーレコード本社)

「シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を下敷きにしたブロードウェイのミュージカルの映画化ということは知っておこうよ!」

あれは、記憶を辿れば高校生のころだったか?  映画『ロミオとジュリエット』を観た友人が「なんだか、『ウエスト・サイド物語』によく似たお話だなぁ」と言ったのには、苦笑せざるをえなかった。観た順 番が逆であっても、まずは『ウエスト・サイド~』がシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を下敷きにしたブロードウェイミュージカルの映画化というこ とは知っておこうよ。まあ、別な言い方をすれば、そうした逆の認識が生まれてしまうほど、この作品はポピュラーな人気を博し、その影響力が大きいというこ となのである。

アメリカのミュージカル映画史を語る時、必ず〈『ウエスト・サイド~』以前、以後〉という文言が登場する。それまでのミュージカル映画は、『ボーイ・ミーツ・ガール』と『ハッピー・エンド』が基本線で、そこにショービジネスの世界を盛り込んで、ミュージカル場面を作ってしまえば出来上がり、というエンタテインメントが大前提であった。MGMに代表される古き良きミュージカル映画の数々だ。

ところが、『ウエスト・サイド~』は見事なほど異なっていたのである。ニューヨークの下町で繰り広げられる、イタリア系アメリカ人とプエルトリコ系アメリカ人の間の人種差別が原因となる、少年ギャング団の抗争と、その犠牲になる恋人同士の悲劇的な結末という、およそミュージカル映画にそぐわない内容だった。しかし、映画が持つメッセージ性は、時代に受け入れられ全世界で大ヒット、日本でのロードショー公開日数は500日以上という興行記録を打ち立てた。さらに本国のアカデミー賞では『作品賞』をはじめ大量10部門の受賞と大成功を納めたのである。以後、ミュージカルには反戦だの、平和だのといったメッセージが求められるようになったことは、『ウエスト・サイド~』が起こした映画史革命の功罪となってしまった。

では、何故それほどまで、この映画が人々を魅了するのであろうか? まずは楽曲の魅力であろう。それまでミュージカルと言えば、コール・ポーターやアーヴィング・バーリンだった。そこに登場したのがレナード・バーンスタインというクラシック肌の作曲家である。ブロードウェイ初演が1957年なので、彼がニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団の常任指揮者になる1年前という、正に油の乗り切った時期の仕事なのだ。ロジャース&ハマースタインの『サウンド・オブ・ミュージック』同様、その楽曲は誰しもいつか何処かで聴いた曲ばかりだろう。主題歌《トゥナイト》をはじめ《マリア》《クール》《アメリカ》と名曲揃いだ。コアなところでは《クラプキ巡査》なんていうコミカルなナンバーもある。バーンスタインはこの楽曲だけの力を信じていたようで、1984年にトニーとマリア役に、ホセ・カレーラスとキリ・テ・カナワを起用してスタジオ録音に挑んでみせた。その模様は『ザ・メイキング・オブ・ウエスト・サイド・ストーリー』として映像に収められ、必見のドキュメンタリーとなった。

次の魅力はダンスシーンの迫力だろう。舞台版の演出・振り付けも担当し、映画版の共同監督としてクレジットされているジェローム・ロビンズの素晴らしい仕事っぷりだ。もちろん冒頭の、当事では珍しいニューヨーク・ロケで撮ったダンスシーンも美しいが、後半の名場面《クール》は何度観てもため息が出てしまう。ガレージという閉ざされた空間と、スクリーンの前後を使った演出は、映画ならではのものと言えよう。ジョージ・チャキリス、リタ・モレノ(アイス役のタッカー・スミスも!)らの歌えて、踊れて、演技も出来てというキャスティングが大成功だったのだ。特にチャキリス扮するベルナルドの、紫のシャツに細いネクタイというファッションが公開当事大流行し、男子は皆真似たそうである。

最後は普遍的な物語の魅力だ。シェイクスピア悲劇はどの世代にも通用するのである。その『ロミオとジュリエット』の名場面を、見事にニューヨークの下町に移し変えたアーサー・ローレンツの脚色と、当事27歳の若き作詞家だったスティーヴン・ソンドハイム(そう、ジョニー・デップで映画化された『スウィーニー・トッド』の人です)の詞が見事だ。モンタギュー家とキャピュレット家はジェット団とシャーク団となり、舞踏会の場面は体育館でのダンス、有名なバルコニーのシーンはマリアの住むアパートの非常階段という具合に、巧みに置き換えられたのである。トニーのソロナンバー《マリア》の中の詞「The most beautiful sound I ever heard」は永遠に耳に残るフレーズとなっている。それが製作50周年記念として発売となったブルーレイ・コレクターズBOXの7.1chサラウンドで、どれだけの効果を発揮しているのか確認せねばなるまい。さらに特典の目玉は、豪華アーティスト競演のトリビュートCDだろう。全8曲収録の非売品だ。要するにここでしか聴けないのだ。シャルロット・チャーチの《SOMEWHERE》、ジュリー・アンドリュースの《I FEEL PRETTY》とかが入っているぞ!