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Andre Mehmari『カンテイロ』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/12/16   13:23
ソース
intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)
テキスト
text:松山晋也

ブラジルを代表する新世代の音楽家の新作歌集


4月のソロ公演に続き、この10月にはイタリア人クラリネット奏者ガブリエーレ・ミラバッシとのデュオでの来日公演も行ったアンドレ・メマーリ。現代ブラジル音楽界を代表するこの俊英ピアニストの評価は上がる一方だが、またまた凄い作品が登場した。

「Canto(歌)」と「Cancioneiro(歌集)」を組み合わせた造語の『カンテイロ』なるタイトルどおり、今回のテーマは歌。2枚組全30曲中 なんと26曲がヴォーカル入りで、モニカ・サウマーゾ、ナ・オゼッチ、セルジオ・サントス、カルロス・アギーレ等々、メマーリと馴染みのある歌い手たち 14人が参加。しかもメマーリ本人も数曲で歌っており、これがまたとても良かったりする。演奏は、ベーシストのネイマール・ヂアス、ドラマーのセルジオ・ ヘーゼ、ピアノのメマーリというトリオが土台になり、曲ごとに様々なアレンジ/編成の下、多くの演奏家(シコ・ピニェイロ、アミルトン・ヂ・オランダ、テ コ・カルドーゾ他計26人と、17人編成のビックバンド)が参加。もちろんメマーリは例によって多重録音でヴァイオリン、アコーディオン、フルート他驚異 のマルチ・プレイヤーぶりを発揮。録音、ミックス、マスタリングまですべて本人が担当するという大車輪状態だ。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタのフレーズが突如差し挟まれたり、モンテヴェルディのマドリガーレ風の歌い回しが登場したり、マーラーを想起させるメロディがあったりと、彼のバックグラウンドをあれこれ窺わせる曲調の多彩さにも驚かされるが、どの曲にもメマーリならではの淡いメランコリーと官能的浮遊感がぎっしりと詰まっている。人生、思想、生活空間のすべてが歌として表現された、アンドレ・メマーリ・ワールドの集大成といった趣。日本盤は、特製ボックスに、1曲ごとの描き下ろしイラストと歌詞・対訳が載ったフルカラーの美しいブックレットが2冊封入。でも限定500セット。