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Charles Hayward『 ワン・ビッグ・アトム』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/12/19   19:33
ソース
intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)
テキスト
text:久保正樹

元ディス・ヒートのリーダーが9年ぶりにソロ作を発表

老いも若きもアヴァンギャルドを嗜好するものなら誰もがその名前を耳にしたことがあるはずの伝説のポスト・パンク・バンド=ディス・ヒート。そのリーダーであり、ディス・ヒート解散後も実験音楽シーンの最前衛で試行錯誤し続けるドラマー/ボーカリスト、チャールズ・ヘイワードが9年ぶりに新作をリリースした。ライブでもお馴染みのカセットテープとドラミングと歌を駆使した「ひとり音響探求」はさらに研ぎ澄まされ、テープ操作されたドローンやベース音をバックに脈打つドラムの振動がぐるぐるとうずまき管を伝わり、ぐらぐらと臓器を揺さぶる。まず一聴、ドラムキットの軋みさえ聞こえてきそうなリアルな録音状態に全身を奪われた。そして事態の罠をペラリと剥がし、核心をむき出しにする言葉を武器に、いつになく穏やかな歌声がこだまし、高らかに叫ばれる。熱い。ただ熱い。ただただ熱い。30年前にディス・ヒートが持っていた容赦のない破壊衝動とはまた質が違うが、その熱量はまったく変わらず。ぐつぐつ。いや、むしろ余分なものを削ぎ落とした音の純度、じりじり迫る音楽の存在感に若返りさえ感じさせる。まだまだ現役ラジカル。

さて内容だが、実験小曲で聴けるミュージックコンクレートもさることながら、やはりポップとアヴァンギャルドの間を綱渡りする歌ものが格別にいい。連打され、ループして、擦られ、無言になり、また爆発的な振動を始めるリズム。テープ操作とのタイミングのハマリとズレの妙が産み出すグルーヴに「はじめにリズムありき」は当然ながら、朴訥と力強いメロディメイカーぶりにも磨きがかかる。なかでも前回の来日公演で披露されていたマイナー調に咆哮するサビが印象的 な《11月5日》、2001年に他界した元ディス・ヒートのガレス・ウィリアムズに捧げられたと思しき楽曲《君の声》の今にも消え入りそうな妄想的音響世界がもつ推進力に、ヘイワードの冒険と私たちの意識がどこまでも遠心・拡張されるのを感じる。