ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、日本デビュー・アルバム『New Brigade』のリリースを間近に控えるスウェーデン発のロック・バンド、アイスエイジについて。彼らはイアン・カーティスの孤独や苛立ちを理解した上で、〈いま〉の状況を歌っていて――。
ドラムスのジェイコブ・グラハムに「どんなバンドに影響されたんですか?」って訊いたらレジェンズやタフ・アライアンスという僕は聞いたこともないようなスウェーデンのバンドを紹介してくれたので、家に帰って聴いてみると、ドラムスのように80年代のイギリスのニューウェイヴを上手く現代に蘇らせているバンドでビックリした。
80年代当時は、北欧の音楽って言えば〈ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト〉的な酷い歌ばっかりだったのに、世の中は変わっていくんですね。もちろん、カーディガンズのような素晴らしいバンドもいたのですが、アメリカの若者に影響を与えるバンドがいるなんて、衝撃だったのです。
でも、まあ、ガールズのクリストファー(・オウエンス)もいちばん最初に好きになった音楽はロクセットと言っていたからな。僕もロクセットの音作り、趣味が良くて好きでした。
そうだよな。北欧のデザインは趣味が良くって好き。ということは音楽も趣味がいいというのは、あたりまえのことなのかもしれない。
僕のなかで、北欧と言えば〈ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト=ダサイ〉というイメージがついていたんですかね。イギリスなどに10年以上遅れて、北欧も若者たちが自分の好きな音楽を発信できるようになったということでしょうか。
てなことを考えていたら、デンマークからアイスエイジというカッコ良いバンドがデビューしました。〈ピッチフォーク〉はさっそく高得点をつけております。どういうバンドかというと、これがジョイ・ディヴィジョンのようなバンドなんですよ。ちょっとワイヤーが入っているところもいいです。
アイスエイジというバンド名も、たぶんジョイ・ディヴィジョンの曲名から取られているんだと思います。
〈俺たちは氷河期に生きているんだ〉と叫ぶイアン・カーティスの歌がカッコ良かった曲です。彼の死後リリースされた『Still』に入っているんで、あまり知られていない曲かもしれませんが、崩壊していく都市の都市生活者の孤独を歌っていたイアン・カーティスらしい歌です。アイスエイジは、そういうこともわかってちゃんとバンド名にしている感じがするのが良いです。
イアン・カーティスの歌というのは、右と左が言い合いするだけで何も変えられない世の中への苛立ち、全体主義への憧れみたいな部分もありました。ジョイ・ディヴィジョンというバンド名がモロにそういう意味ですよね。もちろんアイロニーですが。アイスエイジはそういうこともちゃんとわかってそういう歌も歌っていてカッコ良いです。PVも、水パイプを吸いながらそういうバカっぽい儀式をしていて、おもしろいです。
日本にもこういうバンドが出てきたらいいのにな。右と左が言い合いするだけで、何も変えられない世の中って、捩じれ国会の日本そのままなんですけどね。〈ピッチフォーク〉がアイスエイジをピックアップしているのは、まさにいまの状況を歌っているバンドだとわかっているからですよね。
そうそう、アイスエイジは若いからハードコア・パンクの感じも残っているんですよね。そういうところもすごく良いです。来日もするそうで、楽しみです。来日した時はインタヴューとかしてデンマークの若者の話とか訊きたいです。