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映画『ピラミッド 5000年の嘘』

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公開
2012/01/20   20:14
ソース
intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)
テキスト
text:本村好弘

ドキュメンタリーを越えた超エンタティンメント作品

歴史観が変わりつつある様だ。縄文・弥生の区別が無くなり、鎖国時代でも出島以外の複数の交易があったとされること等、学校教科書に於いても毎年加筆変更が行われている。これらの例は、陶器や稲作技術の科学的解明や新たな古文書の発見や書面の成分分析が成されたからだ。これにより史実が見直され歴史が書き換えられたという訳だ。歴史は人の視点によって変わるが、近年では科学という裏付けで見直される事が多いようだ。とは言え日本人は歴史をロマンとして捉え、キリスト最終の地と言い伝えられている墓碑や、義経が大陸に渡りチンギスハンとして大成を果たす話は幾つかの地方に民間伝承として実しやかに伝えられている。それだけでは無い。この映画にも登場する与那国島の海底の石段は、学者の間でもムー大陸を示す遺跡の発見では無いかと議論を呼んだ。沖縄ではこれをニライカナイ伝説と結びつける人も多く、その証として琉球諸島やミクロネシアで見られる亀石と呼ばれる雨水を貯めて置く亀の甲羅の様に切り取られた石が、採石加工技術を古代人が有したのであり、神の使いとされるウミガメを模した石は、南太平洋文化圏を指すものであると意気揚々と語る人もいた。

数年前、この海底遺跡論争は、英国の海底調査により潮流による自然発生と一定の科学的判断を突き付けられたが、今もなお古代の祭壇の跡であると訴え続ける人も多い。それは、現在では、とりわけ古代史の歴史認証作業は、研究者が科学的根拠を基に仮説を立て、それを物理学的に実証して見せる事に終始している為、あくまで歴史は仮説の科学的立証にしか過ぎない為でもある。つまり次なる研究者が与那国の石群を遺跡として物理学的に証明出来れば、この石群は、潮流による自然石かも知れないし、遺跡かも知れない事が、二説ともそれは歴史として立証されたと言う事になる。とすれば、歴史をロマンと捉えた方がどんなに面白いことか……。

この映画が興味深く面白いのは、これら、相反する論点をうまく利用したドキュメンタリー映画であると言う点だ。老若男女誰でも知っているエジプトのピラミッドの謎をテーマに、前半では、旧態依然とした考古学者や研究者たちの歴史観を、物理学的に疑問を投げかけてゆき、その中で浮上した矛盾や事実を、後半では科学を用いて、歴史ロマンへと見事に変革させている。ドキュメンタリーでありながら、確実にある核心へと向かっているかの様にも見える。物語は、ダヴィンチコードばりのハラハラドキドキに観客をどっぷりと浸からせてくれ、更には、現代人をも巻き込むセンセーショナルな人類への警鐘をも突き付けられる内容か。もうこれはドキュメンタリーの領域を越えた超エンタテインメント。正に信じるか信じないかは貴方次第と言う力強い作品だ。

映画『ピラミッド 5000年の嘘』

監督:パトリス・プーヤール
原作:ジャック・グリモー
音楽:ジャン=バティスト・サビアニ
出演:クリストファー・ダン/イオ・ミン・ペイ/他
配給:スターサンズ(2009年 フランス 106分)
◎2012年2/18(土)全国ロードショー
http://www.pyramid-movie.jp