ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、老舗レーベル、ラフ・トレードが送り出すアメリカはミネアポリス発のロック・バンド、ハウラーについて。デビュー・アルバム『America Give Up』は、〈楽しくロックンロールできればそれでいい〉という雰囲気がすごく良くて――。
ハウラーというバンド名、やはりアレン・ギンズバーグの詩〈吠える〉からきているんでしょうか。『America Give Up』ってアルバム・タイトルも意味深で良いです。
なんてことを書くと、小難しいバンドと思われてしまうかもしれませんが、ストロークスやリバティーンズを世に送り出したラフ・トレードのジェフ・トラヴィスが契約した活きの良いロックンロール・バンドです。しかしジェフ・トラヴィス、センスが良いですね。僕にはヒッピー崩れのオッサンとしか感じられないんですけど。ラフ・トレードの黄金時代は活きの良いロックンロール・バンドって、スティッフ・リトル・フィンガーズくらいしか契約しなかったような気がするんですが、いまは完全に若者の気持ちをわかっていますよね。凄い人です。
ヴォーカル/ギターのジョーダン・ゲイトスミスは弱冠19歳。しかも、ディアハンターのブラッドフォード・コックスを男前にした感じがとっても良いです。昔のアメリカのロック・バンドってマッチョな人ばっかりだったのに、変わってきましたね。カート・コバーンが一掃してしまったという感じでしょうか。
ハウラーは、リバティーンズというよりストロークス色が強いですかね。でも2曲目の“Back To The Grave”や5曲目の“Too Much Blood”なんかを聴くとジーザス・アンド・メリー・チェインぽくって、〈おっ〉と思ってしまいました。ストロークスにはジザメリの感じは一切なかったですもんね。まさにいまのロックンロールという感じがします。
思い返すと、70年代のNYパンクを現代に上手く蘇らせたストロークスもこんな感じに、ジーザス・アンド・メリー・チェインあたりのシューゲイザーなんかも上手くパクるべきだったんじゃないかなと思います。
シューゲイザーじゃないですけど、キングス・オブ・レオンもセカンド・アルバム『Aha Shake Heartbreak』でジョイ・ディヴィジョンなんかの80年代UKインディー・バンドを上手く自分たちのサウンドとして昇華しました。そう言えばケイジ・ジ・エレファントも、2作目『Thank You, Happy Birthday』では自分たちが好きだったピクシーズなんかのグランジ前夜のバンドを上手く採り入れましたよね。ストロークスはあまりにも自分たちのスタイルに固執しすぎたんじゃないでしょうか?
そこへいくと、ハウラーは固執しなさそうで良いです。〈楽しくロックンロールができればそれでいい〉みたいな感じがとっても良いです。8曲目“Told You Once”や9曲目“Back Of Your Neck”のはっちゃけたポップさは王道でしょう。必聴です。バディ・ホリーやエヴァリー・ブラザーズを聴いているみたいに明るく楽しくなります。このへんの感じ、イギリスのバンドはやれないですよね。
ヴァクシーンズと日本で対バンする彼らですが、対バンで観たら、その違いは一目瞭然でしょうね。ハウラーのソロ・コンサートも観たいですが、ヴァクシーンズと観るのも楽しそうです。
小難しい音楽が多いというか、いまの世の中はほとんどがそういうもの。しかも小難しいと言っても、ディレイかけたり歪ましたりしているだけで、べつに大したことはやってない。こんなんばっかりで大丈夫かと思いますが、まだまだ出てきますね。ロックは死んだかもしれませんが、ロックンロールは永遠に不滅ってことでしょう。ハウラーには本当にがんばってもらいたいです。