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Mary Lou Williams 『At Rick's Cafe Americain』

公開
2012/02/15   12:20
ソース
intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)
テキスト
text : 高見一樹

最晩年の演奏に聴くジャズのパースペクティヴ

1910年に生まれ、1982年に他界。生誕101年目を祝したリリースなのか、没後30年を前にした企画なのかわからないが、ジャズのオリジネーターの一人である女性演奏家の最晩年のライヴ録音がリリースされた。アメリカではもちろん、ジャズ・ジャイアンツの一人として尊敬された女性音楽家であるが、日本では、どのように聴かれて来たのだろうか? セロニアス・モンク、マイルス・デイヴィス、チャーリー・パーカーの師匠であり、デューク・エリントン、ベニー・グッドマンに編曲や楽曲を提供していた才女である。この1979年の録音/演奏であるが、これがその時に録音された演奏であるということを印象づけるものはなにもない。演奏は古くもあり、新しくもある。69歳の女性が演奏したということすら、想像するのが難しい。スイングジャズの黎明期から、ノーニューヨーク目前まで、活動を続けた人生のすべてをジャズに飲み込まれた演奏家の、仕上げのような最後の演奏が、このライブアルバムの魅力だ。もちろん本人はこれが最後の演奏などとはおもっていなかっただろう。次のライヴのことを想像しながら、演奏しているかのような活力が聴こえる。ジャズの録音を聴く楽しみは、こうしたジャズ史を作った人の演奏が聴けるということにある。それが一方ではジャズを難しくしてもいるのだが。バッハの曲は残っていても、バッハ本人の演奏を聴く事はできない。手がかりとなる楽譜に演奏家たちの想像力が踊るというのがクラシックの楽しみだ。オリジンが保存され続けるジャズ史のアーカイヴが、今も持続するジャズ史の行方をどのように開いていくものなのか、アルバムの冒頭を飾るスピリチャルに基づく即興のような演奏の中に、その答えを聴いたような気がした。

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