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SKRILLEX

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360°
公開
2012/02/22   00:00
更新
2012/02/22   00:00
ソース
bounce 341号(2012年2月25日発行号)
テキスト
文/入江亮平


グラミーも喰い破る猛獣、スクレリックスの服用はお早めに!



Skrillex_A

全米での熱狂ぶりが止まらない。ここ日本でも話題となりだしたスクリレックスことソニー・ムーアは、まだフル・アルバムのリリースもないのに数枚のEPでグラミー賞の3部門までもをサラリとかっさらってしまった。まるで彗星のように現れたこの男だが、スクリーモ/ハードコアに一家言ある人にとっては、2004〜2007年にフロム・ファースト・トゥ・ラストのヴォーカルを務めた人物としてお馴染みだろう。脱退後はソニー名義で活動していた彼だが、声帯を痛めたため、本格的にその表現をダンス・ミュージックへ移行し、スクリレックスを名乗りだしたのが2008年。フレンチ・エレクトロのブームが一般化へと進み、UKではダブステップが現在の多様化に繋がる触手をまさに伸ばそうとしていた頃だ。

ダブステップがテクノ/ハウスやエレクトロニカとの交配を進める一方、顔役のスクリームはマグネティックマンを率いて全英チャートを駆け上がり、ラスコはレディ・ガガやリアーナらUSポップ・フィールドからのラヴコールに応えるなど、メインストリームへの流入も同時進行していた。その匂いに北米から素早く飛びついたのがデッドマウスであり、スクリレックスを発掘したのも何を隠そうこの鼠男が主宰するマウストラップである。

トランシーかつプログレッシヴなハウスで一躍人気を博しながら、エレクトロやフィジェットというトレンドにも柔軟に対応していくなかで、デッドマウスらはダブステップ本来の魅力とされる深遠な低音をレイヴィーでアッパーな快楽装置へ見事に変換した。そんなマウストラップからフィード・ミーに続く最終兵器として投下されたのがスクリレックスだったのである。EP『Scary Monsters And Nice Sprites』には出自のエモさを前面に出したメロディーラインとド派手な展開、ロック・ギタリストがファズを踏み込む瞬間にも似た殺傷力抜群の凶暴なベースラインをハイライトとするトラックが満載され、瞬く間にフロアをキッズたちで埋め尽くした。しかし、そういった盛り上がりに反してオリジナル・ダブステッパーたちからその音楽はブロ(ークン=壊れた)ステップという呼称で揶揄されることとなる。

同時期にはハードコア上がりのビッグ・チョコレートが現れ、マウストラップも新たにエクシジョンなる刺客を送り込み、さらにはコーンがスクリレックスも名を連ねる最新作で〈ダブステップは自分たちの音楽だ〉と表明したことで、ダブステップvs.ブロステップ論争(抗争?)は過熱した。しかしもはや同じ土俵で語るのはナンセンスで、なぜならスクレリックスが提供するハイブリッドでドゥームな恍惚感は作品を追うごとに肥大化し、次のジャスティスを作れずに収束していったエレクトロ層から、ペンデュラムやサウス・セントラルをはじめとするプロディジー一家まで、つまりは激情を開放してくれる受け皿として大器へのステップを着々と踏んでいるからだ。

丁寧に混ぜたり、溶かしたりするのもいいが、最新EP『Bangarang』においてエレクトロもダブステップ、ハウスにテクノ、それこそスクリーモまでそんなの関係ねーとばかりに何でもブチ込んでダイナミックに煽る様は、ここ数年のダンス・アクトでも例を見ないものだ。何でもすぐ手に入る広大な海原で好き勝手にそれぞれ泳いでいる時代に、いまこの男の周辺には快楽主義者が集まって山を築き上げそうな勢いすらある。モーション・キャプチャーを使用して、彼自身の動きとリンクした巨大なアバターがオーディエンスを煽る次世代型のライヴ・パフォーマンスもクソかっこいいと話題だ。来るフル・アルバムで彼が次のダフト・パンクやプロディジーになるのは(日本でも夏フェスに来ようもんなら)もう時間の問題なのである。



▼ソニー在籍時のフロム・ファースト・トゥ・ラストの作品。

左から、2004年作『Dear Diary, My Teen Angst Has A Bodycount』、2006年作『Heroine』(共にEpitaph)

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