NEWS & COLUMN ニュース/記事

ケミカル兄弟&オービタルの新作リリース前夜祭! テクノのライヴ百鬼夜行!!

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2012/02/28   23:00
更新
2012/02/28   23:00
テキスト
文/石田靖博


長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!



3月にリリースされるケミカル・ブラザーズの初のライヴCD&DVD『Don’t Think –Live At Fuji Rock Festival』(タイトルはブルース・リーの名言から?)と、オービタルの8年ぶりとなる復活作『Wonky』という2大お宝アルバムの降臨を記念して……ということと、共にライヴに定評があること繋がりで、今月はテクノ系のライヴ・アクトが捜査対象です!

テクノ系のライヴは〈ライヴPA〉と呼ばれることもあるように、ロックなどと違って一からの生演奏ではなく、トラック自体を再生することがベース。そこにシンセなどの生演奏も被せることがあるレヴェルなので、基本的に地味なのである。その地味ぶりをいかにショウとして成立させるか、頭を使って工夫したのが上述の2組だ。

まずケミカル兄弟であるが、シンセを積みまくった要塞のようなブース(この配置も初期から現在に至るまで、さまざまな変化と工夫が凝らされてる)のなか、2人がビートに身を任せつつ、キメのブレイク部分で煽るという、ある意味テクノ系ライヴの王道である。

オービタルも基本シンセ要塞内での作業ではあるのだが、薄暗いステージのなか、機材の細かな操作のために着用していたライト付きメガネのインパクトがあまりにもありすぎたため、その姿がイメージ・ヴィジュアルになってしまうほどだった。なんせ、2001年作『The Altogether』ではライト付きメガネ着用のレントゲン写真がジャケですから。

シンセ要塞といえば、かつて日本では〈テクノ四天王〉の一角と呼ばれることもあったプロディジーの要塞ぶりもスゴい。逆モヒカンのキース・フリントや不穏な空気を漂わせるマキシムに目がいきがちだが、小室哲哉ばりに積みまくったシンセ群(しかも前面は丸空け状態)のなか、〈そんなにオーヴァー・アクションで弾かなくても音出るよ、シンセって〉とツッコミを入れたくなるほどパワフルに弾きまくるリアム・ハウレットの姿こそテクノ界のハード・ロッカーであろう。

となると、〈テクノ四天王〉の残りひと組、アンダーワールドにも触れねばなるまい。現在では、弾けないギターを弾くんだぜ、といった風情で(?)踊ったり歌ったりするカール・ハイドと、その横のシンプルな機材ブース内で淡々と作業をするリック・スミスという分業スタイルだが、かつてダレン・エマーソンが在籍していた頃の、曲ごとにミキサー卓に貼るメモ書きシート(このツマミは何の音とか)を差し替えていく様子に萌えていたのは淡い記憶。そして、ライヴで定番の“Rez”“Cowgirl”のノンストップ・ミックスも超カッコ良いのだ。

続いては、ステージ上の地味ぶりをルックスで補完するという手法。その究極はダフト・パンクだろう。初来日公演で観たときは、フランス版ショーン・ライダー風なゴツめの男と線の細い優男が機材前で淡々と作業し、たまに煽るというスタイルだったのだが、ライヴにおいても顔出ししないことを徹底した結果、あのロボット的なルックスに辿り着き、かつブースをピラミッド型にして映像と完全シンクロさせるという最高のライヴ空間を生み出したことに感心してしまうのだ。いまをときめくデッドマウスも顔出しNGからあのネズミキャラ(しかも顔自体がスクリーン!)になった点ではダフト・パンクと同じ路線でしょう。

テクノのライヴは地味だからしょうがないじゃん、と居直った連中もたくさんいて、その極北がオウテカでしょう。フロアもステージも完全に消灯して、ラップトップPCの光のみしか見えない、しかし音はとんでもないというある意味アッパレなライヴを決行していたのもいい想い出だ(しかし客としては周り見えなくて恐かった)。

地味だろうとオレはこんなやり方しかしねえんだよ!とオリジナルすぎるライヴを行ったのは、やはりエイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスでしょう。DJとしても、膝立ちでステージ脇でプレイという斬新さで度肝を抜いたが、初来日ライヴのほうも、いま考えるとどうかしていた独自のスタイル。ステージ上に置かれたソファーに寝転がり、つまんなさそうにPCを淡々と眺めているだけというナチュラルすぎるプレイぶりだった。しかし音のほうはメチャメチャ最高で、途中でリチャード顔のクマの着ぐるみ(“Donky Rhubarb”のPVで出て来たヤツ)がフロアに登場したときは、フロアではモッシュが発生するほど狂喜乱舞。でもリチャードはフロアを一瞥することなくPCを見つめ続けるというトラウマ級のライヴだった。前にプレイしていたDJ(リフレックスの共同経営者、DJグラント)のプレイを止める合図として物を投げつけていた光景も印象的だったし、後の〈フジロック〉では流石にアレはないだろ……と思ったが、手作りの小屋のなかに寝転がってプレイ。結局、観客にはほぼ姿が見えないというどうかしているスタイルで、やはりリチャードさんはブレがなくて最高だなと。

最後に珍種。ハーバートのライヴはその場で出した音をサンプリングして演奏するスタイルなので、最初に観たときにはヤカンや鍋が積まれた、ライヴを行うステージというよりはMOCO’Sキッチン的な様相であった。その後のレディオボーイ名義でのライヴでは、観客に配布されたCD『The Mechanics Of Destruction』で展開されていた、曲タイトルにあるメーカーの商品などから発生する音で曲を作るという試みの再現だったため、ハンバーガーやらCD、新聞を振ったり割ったり投げたりした音を即サンプリングして演奏するという、滅多に観られないシロモノでした。未見ですが、2011年に豚の一生をコンセプトにした『One Pig』を楽曲を演奏するライヴもさぞやスゴかったのではないだろうか。



PROFILE/石田靖博


クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラブ・ミュージックのバイイングを担当。現在は、ある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→格闘技好きにとって夢のイヴェント〈UFC〉に行ったのですが、そこで流れる入場曲やBGMではスクリレックス的なエレクトロ系も多く流れていて、ここまで流行ってるのだなーと体感しました。