オヴァルの大博覧会的2枚組
『OvalDNA』は、オヴァルのアーカイブ的な作品だ。オーディオCDとDVD-ROMの2枚組。CDには、全25曲、1997年〜2010年までの未発表曲などを収録。DVDには、WAVファイルでのボーナストラック、15分のインタヴュー映像、新曲PV、そして、『Dok』や『Ovalprocess』といった過去作品中に使用された短いループ生素材(総時間14時間以上、4.77GB)がぎっしり入っている。オヴァルことマーカス・ポップ本人、デヴィット・トゥープ、畠中実、佐々木敦らの読み応えがあるライナーノーツも同封。レーベルのサイトでオヴァルのオリジナル・ソフトがダウンロード可能なパスIDも付属している。
オヴァルについて語られる時、ほとんどが音楽制作手法についての話題になる。80年代にニコラス・コリンズや刀根康尚が行ったように、初期オヴァルもCDのスキップ音やグリッチが特徴的だったことは確かだが、それよりも〈音の選び方/集め方/組み合わせ方〉に秀でたセンスがあった気がする。オヴァルのCD作品は、クリスチャン・フェネスの作品同様、どれもなんとなく情緒的で、心地よいものが多い。ラディカルな完全ノイズ指向の作家や手法を強調した作品とはそのあたりが異なる。この2枚組の作品で面白いのは、DVDに収録されている2000を超えるオヴァル・ループだ。試しにこれらすべてをiTunesに入れてみた。タイトルを『OvalDNA』としたのがよくわかる。それぞれが3秒〜7分程度の、〈曲〉になる前の〈音素材〉2002ファイルをシャッフル再生してみると、顕微鏡でオヴァル作品の内部を覗き込むような体験ができる。曲制作の為に選ばれ、集められた音たちが今度は標本のようにバラバラに提示されるのだ。また、ドキュメンタリー的なインタヴュー映像(英語)には、2010年発表の『O』制作風景や環境、ヤン・ヴェルナーとの会話等、興味深い内容が盛り込まれている。