隙だらけ!? 閉ざしていた窓を開け放つような、改めての第一歩
folk squatは2002年に平松泰二と田原克行によって結成されたユニット。2004年、現在も所属するレーベル、&から発表された『I KNOW YOU KNOW』は、ポスト・ロックあたりを指向する洋楽ファンからも支持を集めたが、その後、現在に至るまで2人の関係が遠のくわけでも近付くわけでも、もちろんメンバーが増えるわけでもなく、あくまで互いに適度な距離を保ちながら淡々と活動してきている……というキャリアだけを取り上げると、取り立てて印象が薄いように思われるが、この2人、実はさりげなく個性的なクリエイター同志なのだ。ブライアン・ウィルソンを頂点とするスタジオワーク好きと、ペイヴメントのような90年代スタイルのUSインディー好き。つまり、緻密に音を作り込むことと、スポンティニアスに音を鳴らすこと。正反対の感覚がひとつに合わさっているというわけである。
しかしながら、当初の彼らは禁じ手のようなものを多く設定していたようで、筆者が最初に取材をした時も、〈こうでありたい〉という思いを絶対に譲らない頑固なユニットという印象だった。例えば、決して演奏はヒートアップしないようにしよう、例えばできる限り表情を隠そう……といった具合。もちろん、そういったことを踏まえた作品作りができるだけのスキルがあるから、それこそブライアン・ウィルソンもかくや、のメロディーラインはとことんドリーミーにアレンジし、でもペイヴメントのようなニヒルさもちょっと入れて……といったように、徹底的に理想を追求していた。
だが、この4年ぶりとなる新作『folk squat』はちょっと違う。言ってみれば、かなり隙だらけのアルバムだ。もうどっちに転んでもいい、ホットになっちゃったらそれでもいいじゃないか、といった開かれた感覚がサウンド・プロダクションの端々に表出している。平松のヴォーカルは少しくらい音程がズレていてもそのまま。ローファイ好きの田原はまるでライヴのようにイビツなベース・プレイだ。それぞれが手掛けたプログラミングもキッチリ噛み合わせることなく放り投げた状態のようだったりする。その結果、2人がスタジオで笑ったりふざけたりしている様子が伝わってくるようになった。決してヒートアップしない、喜怒哀楽を表に出さないことに徹してきた彼らが、あれれ……というほど愛らしささえ見せているような、そんな仕上がりになっているのだ。彼らと同じ&に所属する、ラルトラのリンゼイ・アンダーソンが来日した際に交流を結んだり(結果、本作でも2曲でヴォーカル参加!)、平松が静かな話題を呼んでいる女性シンガー・ソングライター、aoki laskaの録音/ミックス/プロデュースを手掛けるなど、これまでになく他アーティストと接点を持ったことも、開かれるきっかけとなったのかもしれない。
そういう意味では、この5作目は彼らの改めての第一歩となる一枚と言っていいだろう。閉ざしていた窓を開け放つと、こんなにも色彩豊かでキラキラした世界があった、と。耳を澄ませば、そんな彼らの本音さえ聴こえてくるようなアルバムだ。