ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、昨年復活を果たしたポップ・グループの中心人物、マーク・スチュワートのニュー・アルバム『The Politics Of Envy』について。〈俺たちはこの大量殺人にどれだけ我慢できるか〉というメッセージをポップ・ミュージックの世界に持ち込むということは、僕らパンク世代にとって、とてつもなくかっこ良いことだったんだ――。
「rockin’ on」誌4月号のインタヴューで、マーク・スチュワートが「俺らの世代にとって、デヴィッド・ボウイの影響はとんでもなくデカかった。俺たちにはいろんなことを教えてくれたんだ。ウイリアム・バロウズもボウイを通して知ったし、要するに彼が俺の目を開かせてくれたんだ」って答えているが、僕はその言葉をそのままマーク・スチュアートに投げ返したい。
僕は47歳ですが、僕らパンク世代にとって、ポップ・グループの存在はすごくデカかった。ジョン・ライドンと同じくらいヤバかった。だからいまの若い子たちがポップ・グループを再評価してくれているのが嬉しい。
〈俺たちはこの大量殺人にどれだけ我慢できるか〉というメッセージをポップ・ミュージックの世界に流すということが当時どれだけかっこ良かったか、いまのみんなに伝えたい。
セカンド・アルバム『For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?』のオマケに付いていた政治色満載の白黒ポスターのかっこ良さ、みんなに見せたい。再発しているのにはこのオマケ付いているのかな。みなさん買って確認してみてください。クラッシュとかが色褪せて見えたもんな。オマケが付いてなかったとしても、音が、メッセージがヤバいんで聴いてみてください。
彼らのメッセージはいまの日本にも突き刺さるよね。いま原発事故で起こっていることは〈俺たちはこの大量殺人にどれだけ我慢できるか〉ということだよね。
えっ、まだ誰も死人は出ていない? そうやって、風評被害を広めるな。バカ言ってんじゃないよ。ポップ・グループが歌っていたことも、別にイギリスで起こっていたことじゃないよ。ジンバブエとかで起こっていたこと。そのメッセージは内政干渉だ。でも、そのメッセージは、僕たちにグサッときたのだ。
僕たちの行いがジンバブエの虐殺にどう繋がっているか、彼らは気付かせてくれたのだ。原発のこともそうでしょう。僕たちのお金が利益を生むために使われ、その誰かの利益のために、何万人もの人がこれからの20年以上のあいだ、故郷を奪われることになった。これは完全に、ポップ・グループのメッセージ〈俺たちはこの大量殺人にどれだけ我慢できるか〉をいま、どう考えるかでしょう。ポップ・グループのフリーキーなファンク・サウンドに乗って踊り狂うしかないでしょう。
で、マーク・スチュワートの新作『The Politics Of Envy』です。なかなか出なかったですが、ついに出ました。参加ミュージシャンがすごい。プライマル・スクリーム、リー・ペリー、リチャード・ヘル、元ジザメリのダグラス・ハート、スリッツのテッサ・ポリット、レインコーツのジナ・バーチ、ケネス・アンガー……そして、プロデュースがユースだ。これで良くないわけがない。ありとあらゆる実験が行われている。そして、マーク・スチュワートの声。はっきり言えば、マーク・スチュアートの声があればそれでいいんですよね。
大鷹俊一さんがこのアルバムを〈これまでいろいろやってきたもの集大成〉と評して、マークも「その意見は、完璧にこの作品を要約してる」と言っているけど、僕もその通りだと思う。
だけど、これって〈マークは大人になった〉ということだと思うんだよね。ポップ・グループの時も、マーク・スチュワート&ザ・マフィアの時も、ファンクだ、政治だ、ダブだとなったら、なりふり構わずそこに突き進む感じがかっこ良かったのに、けっこう全方位のアルバムになったのは残念なのかなと僕は思う。
アシッド・ハウスが爆発した時、マーク・スチュアートもこのへんの音楽をやりそうになったんだけど、できなかった。
ジョン・ライドンもできなかったことだし、若いカルチャーに突然コミットするのは難しいと思う。だけど僕は、マークにはやってほしかった。あの頃、アシッド・ハウスにはその政治性の代弁者が絶対に必要だったのだ。マークの場合はゲイリー・クレイルがそっちにいったので、いきづらかったというのはあるんだろうけど。
マークにはいつまでも恐るべき子供たち=アンファン・テリブルでいてほしかったな。〈恐るべき子供たち〉ってどういう意味かわからないけど、商人となって誰の所有物でもない海に国家を作ろうとしたランボーのように、荒唐無稽な存在として音楽を、メッセージを発してもらいたい。
でも、まずはこの完全復活を祝いましょう。