クラシカルとモダンの間で共振する21世紀的メランコリー
全部たしかめたわけではないから定かではないが、「モダン・クラシカル」のほとんどはどうも例外なく美しいのはファンの方ならご承知のことだろう。繊細な分散和音や点描的なシングル・ノートが空間をつくり、その広がりの中で既聴感と新鮮さのあわいからくるメロディが音楽とリスナーとの紐帯の役割を担う。こんなとき、聴くよろこびを感じて、陶然となるのは当然である。ピーター・ブロデリックもこの構造の効果を存分に活用している。このシーンの旗頭であるニルス・フラーム(本作のプロデューサーもつとめた)の盟友にして、映画やダンス音楽などもよくする20代なかばのこのマルチ器楽奏者は『ホーム』以来、4年ぶりのヴォーカル・アルバムとなる本作で、きわめてシンプルな哲学と、逆説的ないい方になるが、多彩な方法論を併置し、メロディに多方面から光をあてている。ひとつの旋律が生まれ成長する過程をみるように『http://www.itstartshear.com』は展開する。その軌跡は単線的である以上に旋律的であるといっていい。つまり音楽に流れていきたがるものが伏せていて、チャンスとみるや横軸の動きをみせる。それに身を任せるのは古典的な音楽の愉悦だが、彼は同時に、ジェームス・ブレイク、ボン・イヴェール、チルウェイヴ、いずれにしせよ21世紀初頭のメランコリーと共振する現代的な質感で全体をつつみこむ。細部には「モダン・クラシカル・フォーク」というジャンル名(?)に通じる曖昧さもあるが、フォーマットの余白をのびしろに代えれば、彼の音楽はさらに先に進むはずだ。いや、ほとんどコマソンな《It Starts Hear》に顕著だが、彼はこのアルバムのカギとなるこの曲で、音楽の美しさと不釣り合いなURLをサビで朗々と歌いあげることで、言葉に対する音楽の優位を示しただけでなく、諧謔を加えることでモダンからポストモダンへ、すでに先手を打ってアップデイトし終えたのかもしれない。決定打とはどのみち転換点なのでそれも当然だろうか。