絶えず、受け継がれるバルー/サラヴァの美学
ピエール・バルーが主宰するサラヴァ・レーベルの作品は、70年代前半から40年間にわたり、常に日本(人)と共にあった。長期間断絶することなく、コロムビア、ポリスター、オーマガトキ等々、一つのレーベルとの契約が切れると別のレーベルが手を差し伸べる形で日本盤のカタログは受け継がれてきた。世界で最もサラヴァ/バルーの哲学を理解し、その音楽を愛しているのが日本人であることはまちがいない。というわけで、オーマガトキでのリリースが途絶えてから約2年。今回新たにレーベル契約したのはヤマハである。第一回発売予定はオリジナル盤再発が2枚、新たに制作されたコンピ盤が2枚だ。再発は、サラヴァの記念すべき第一号アルバムであるブリジット・フォンテーヌ『ブリジット・フォンテーヌは…』(68)と、ピエール・バルーの初期傑作『サ・ヴァ、サ・ヴィアン』(71)で、後者には映画『サ・ヴァ、サ・ヴィアン』のテーマ曲のサントラ・ヴァージョンなどボーナス・トラックが3曲追加されている。そしてコンピの方は、まずバルー自身の選曲による2枚組(計37曲)『森の記憶』。今年は、彼の62年の初レコーディングからちょうど50周年にあたるわけで、その間に発表してきた数々の名作の中から、特にエコロジカルな精神に溢れた曲が選ばれている。そもそもバルーの存在そのものがエコなのだが、その哲学がより明瞭に言葉やメロディとして表現されたこれらの楽曲を並べて聴くと、改めてバルーという男の生き方のやさしさと厳しさが浮き彫りになる。ジャケット写真も素晴らしい。そしてもう1枚のコンピは、お待たせしました、サバービア橋本徹の登場。橋本選曲のサラヴァ・コンピといえば、10年ほど前に〈サラヴァ・フォー・カフェ・アプレミディ〉シリーズがヒットしたが、今回は、カエターノ・ヴェローゾが提唱したサウドシズモ(サウダージの精神性)をテーマに編まれている。題して『モンマルトル、愛の夜。』。つまり、ブラジル/ボサノヴァのサウダージではなく、60〜70年代モンマルトル/パリのサウダージ、という視点からサラヴァの世界のエッセンスを抽出しようというもの。バルーがバーデン・パウエル他と共演した《愛の夜》のオープンリール音源やジャック・トゥリーズの国内初CD化曲など、レア音源も満載だ。なお、4月25日には橋本選曲の続編コンピとして、ジャズと左岸派シャンソンをテーマにした『サンジェルマン、うたかたの日々。』も発売予定だ。