長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!
いたら大感謝!なのですが、当連載を続けて御覧になってる方なら、お気付きかもしれません。「コイツ、昔のテクノ絡みの話しかしてねえな」と。うん、鋭い! やはり90年代テクノ~クラブ・シーンのおもしろさを体感しちゃったので、どうしても昔のテクノの香りがするものが気になる訳です。
そんなテクノ親父を見かねて、編集部が紹介してくれたのが今回のお題のローン。なんでもモードセレクターやXXのジェイミーXX、ピアソン・サウンドなど注目&豪華&強力リミキサーが大挙集結したレディオヘッドのリミックス集『TKOL RMX 1234567』にも“Feral”で参加しているし、これは最新サウンド(ぼんやり表現)に違いないっ! ……と思ってニュー・アルバム『Galaxy Garden』を聴こうとしたら、あれ? レーベルに懐かしの馬のマークが……。
そう、今作はあのR&Sからのリリースなのだ。R&Sと言えば、最近では何と言ってもジェイムズ・ブレイクの『CMYK EP』を含む一連のシングルが有名ですが、テクノ親父から見ればワープ――いまは亡きライジング・ハイと共に3大テクノ・レーベルの一角であり、エイフェックス・ツインやケンイシイなどのテクノ・スーパースターが在籍した超名門なのだ!
そして肝心のアルバムは、これ、まさにテクノ親父世代こそ悶絶するようなサウンド! 耳触りの良い、コロコロした質感のクリアなシンセに人懐っこいメロディー。ダンスやフロアを意識しない、腕白に走りまくるリズム。ところどころに垣間見える、90年代テクノへの郷愁とリスペクト。猛烈に90年代テクノ的なのである。特にR&Sの先輩であるエイフェックス・ツイン――細かく言えば、ドリルンベースの導入以前(『Selected Ambient Works 85-92』や『Classics』期)に似ているのである。
そう思うと、笑っちゃうほどステレオタイプでレイヴィーなシンセが強烈な先行シングル“Crystal Caverns 1991”も、煌めく郷愁メロなシンセと疾走するリズム、合いの手で入る変な掛け声がエイフェックス的だし、“Raindance”のリズムは『Classics』に収録されたハード・テクノ期に近い。
“As A Child”“Cthulhu”ではオウテカ以降のゼロ年代エレクトロニカ・シーンで人気となり、最近ではプラネット・ミューからジューク的な新作『Room(s)』を出したマシーンドラムが参加していて、ここで90年代テクノ~2000年代エレクトロニカ〜2010年代ベース・ミュージックの邂逅が起きているのだ! 女性ヴォーカルをフィーチャーしたラスト曲“Spirals”は、声質の相似もあってか、オーパス3をサンプリングしたオービタルの名曲“Halcyon”を彷彿とさせる。ハード系もエレクトロニカもチルアウトも、いろんな方向性の曲が一つのアルバムにまとめて収録されているのも90年代っぽいよなー。あれ? 最新サウンド紹介だったはずなのに、結局90年代テクノ的だったな。今回も……。
PROFILE/石田靖博
クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラブ・ミュージックのバイイングを担当。現在は、ある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→ライアン・ゴズリング主演の映画「ドライヴ」の音楽がいい湯加減のエレポップ~ディスコで最高でした。