ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ジャック・ホワイトの初のソロ・アルバム『Blunderbuss』について。アメリカのロックンロールの歴史をよく知る男が作り上げたのは、後期ホワイト・ストライプスのような学術的なものではなく、音楽でやれることは全部やったような楽しい作品で――。
いまいちばん尊敬するアーティストと言えば、ジャック・ホワイトである。
マーク・ボラン、キャプテン・ビーフハート、フェイセズ、フォールなど、いろんなアーティストをサポートしてきたジョン・ピールが最後に愛を注いだバンドがホワイト・ストライプス——つまり、ジャック・ホワイトだった。
〈いまのイギリスのバンドはジャック・ホワイトのようにちゃんとルーツを勉強していないよね〉とジョン・ピールはよく言っていた。99年頃のことだけど、僕はそれがどうしたと思っていた。
その頃の僕はクランプスやギターウルフのようなヴォン・ボンディーズのほうが好きだったし、ジャック・ホワイトがヴォン・ボンディーズのヴォーカル/ギターのジェイソン・ストールスタイマーに暴行をはたらいた時も、〈ジャック・ホワイトは偏執狂だから、やっちゃうんだよね〉なんてことを思っていた。
すまん。いまはジャック・ホワイトのことが大好きだ。彼の全部が好きだ。
ジャック・ホワイトの、グレッチ特注のピックアップが3つ付いたデュオ・ジェットも好きだ。このギターからマイクが出てくるのも大好きだ。
ロックンロールの聖地・ナッシュビルにあるジャック・ホワイトのサードマン・レコーズも大好きだ。ライヴハウスがあって、録音もできて、レコード・ショップは移動式のバンなんて、最高にかっこいいじゃないか。プリンスなんて目じゃないよ。
この王国がいつまでも続き、発展することを心から願う。
尊敬する人にこんなことを言うのは失礼だと思うんだけど、僕にはジャック・ホワイトの考えていることが全部わかるような気がする。音楽に関する考え方が似ていると思う。アメリカのロックンロールの歴史を知っていたら、こういうふうになると思うんだけど。それを実現させていっているのが凄い。
アメリカだけじゃないよね。イギリスのこともよく知っていると思う。今回の初ソロはすべて、男性バンドと女性バンドで同じ曲を録音して、いいほうをピックアップしたそうだ。
女性バンドの素晴らしさを知っているというのは、80年代のイギリスのニューウェイヴを知っているということだ。モデッツ、レインコーツ、デルタ5、ベル・スターズなど、女性バンドは本当に独特な音やグルーヴを出していたと思う。こんな女性バンドの凄さというのをよくわかっているんだろうなと思う。
当時ファン・ボーイ・スリーやコミュナーズがそれに気付いてバック・バンドを女性にしていたのがとってもかっこよかった。
そういう感じをジャック・ホワイトはよくわかっているんだろうな。アメリカでもゴーゴーズは本当に斬新だったと思う。古くはボ・ディドリーがいつも女性ギタリストを引き連れていた。トーキング・ヘッズも音の要はティナ・ウェイマスのベースだった。プリンスも女性メンバーをたくさん起用した。わかる人はわかるのだ。
それがこのアルバムでどう作用しているのか、凡人の僕にはわからないんだよな。残念。〈フジロック〉でライヴを観たらわかるかも。ジャック・ホワイト、どうするんですかね。女性バンドと男性バンド、両方引き連れてくるんですかね。フェスでは無理か。ワールド・ツアーではやりそうですね。この時にこのアルバムの本当の姿がわかるのでしょうか。
このアルバム、僕としてはイギリス的なアルバムのような気がしました。どうイギリス的かというのを説明するのは難しいんですが、サードマン・レコーズに、ビートルズに始まり、マーク・ボラン、レッド・ツェッペリンの良きアドバイザーだったイギリスのロックの生きる伝説BP・ファロンがいる感じがよくわかるアルバムのような気がします。
67年とか74年の、ムーヴメントの狭間のロックンロール。わかりやすい音ではないんだけど、雑種で、本当におもしろい音楽をやっている感じがする。ちょっとみんな誤解するかもしれませんが、クィーンの『Sheer Heart Attack』『A Night At The Opera』のような、音楽でやれることは全部やったみたいなアルバムのような気がします。
後期のホワイト・ストライプスみたいにロックンロールを分析しまくった学術的なアルバムじゃない、好きなことだけをやった楽しいアルバムです。