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グレゴア・マレ

カテゴリ
o-cha-no-ma ACTIVIST
公開
2012/05/11   16:13
ソース
intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)
テキスト
文 佐藤英輔

遅れてきた新人、グレゴア・マレを知っているか?

あれれ、なんか綴りの変な新進がNY産のアルバムによく入っているな。そうした感じでこの75年スイス生まれのハーモニカ奏者の名前が見られるようになったのは、ちょうどミレニアムを回って以降。ジャッキー・テラソン、ミシェル・ンデゲオチェロ、カサンドラ・ウィルソン、スティーヴ・コールマン、パット・メセニー、マーカス・ミラー、リチャード・ボナ、等々。彼は小さな楽器で雄弁に、艶や奥行きを表現に与えていた。

まさに、ミュージシャンズ・ミュージシャン。もともと奏者数の少ないハーモニカ奏者ゆえ、目立つということはある。だが、一つ強調しなければならないのは、マレを使った人たちはそれ以前、ハーモニカ奏者を基本起用してはいなかった! つまりは、彼らはマレという才能を知り、ハーモニカ奏者を録音に誘ったと言える。少し飛躍すれば、彼は自らの才によって、ミレニアム以降の広義の現代ジャズ/フュージョンの色づけのパターンをやんわり広げた人物とすることも可能か。

そんな逸材が米国eOneから出した『グレゴア・マレ』はなんと引く手あまたの彼にとって、初の単独リーダー作となる。共同プロデューサーを勤めるのは、マレとガイアというトリオ(ジーン・レイクがドラマーを勤める)を組んでいたりもするウルグアイ人キーボード奏者のフェデリコ・ゴンザレス・ペーニャ。彼はマーカス・ミラー関連のプロジェクトでよく腕をふるっている人物だ。

アルバムでは自作曲に加え、ミルトン・ナシメントやイヴァン・リンスのブラジル曲、さらにスティーヴィー・ワンダー曲やメセニー曲などを取り上げ、曲種に合わせてミラーやカサンドラやジェフ・テイン・ワッツからブランドン・ロスまで、過去絡んできた人たちを含む実力者たちを自在に配置する。ときには、弦音が入る曲もある。

かように周到に作られた作品を聞いてすぐに合点が行くのは、これまで歩んできた様々なキャリアを括りたいという意思だろう。そして、それをあっさりとなしとげた音群が浮き上がらせるのは、現代や都会という要件を通した大人のお伽噺と言いたくもなる、流麗美味なサウンド・スケープ。それこそが、マレが求めるものではないか。

グレゴア・マレって、どんな人? 彼の魅力って何? それを知りたいのなら、そのセルフ・タイトル作を聞けばいい。聴きやすいのに、いろんな情緒を抱えた音楽性、ハーモニカという楽器のうれしい不思議がたっぷりつまっている。