リクエスト・ライブラリーを彩る俳優と監督たちについて
5月と6月に発売される20世紀フォックスのリクエスト・ライブラリー第5弾のラインナップを眺めてみると、かつての発売作品との違いに、いささか驚く。その違いとは? 『華麗なる賭け』や『ジュリア』『北国の帝王』などの、いわゆる王道作品から『ハリーとトント』『ヤング・ゼネレーション』などの、ニュー・シネマ作品までと、まずはハリウッド映画が基本であった。しかし今回の発売の作品群には、イギリスの香りが満載なのである。ここが大きな違いだ。
『マドモアゼル』(66年)の監督であるトニー・リチャードソンは、フランス映画で言うところのヌーヴェル・ヴァーグ、イギリス映画界60年代始めの〈ニュー・ウェイブ〉の代表格で、カレル・ライス監督の『土曜の夜と日曜の朝』を製作、『長距離ランナーの孤独』を監督(共に原作はアラン・シリトー)と活躍。1963年の『トム・ジョーンズの華麗な冒険』で、イギリス映画では48年の『ハムレット』以来のアカデミー賞を作品、監督など4部門で受賞するという快挙を成し遂げる。ハリウッドがずっと持ち続けている英国コンプレックスは、このあたりの彼の活躍がトラウマとして残っているのが原因かもしれない。
というイギリスの名監督の映画でありながら、舞台はフランスの片田舎、主演はフランス映画界を代表する名女優ジャンヌ・モローというのが、この映画のユニークなところ。役柄はすべての欲望を内に隠し、日常は「マドモアゼル」と村人から呼ばれる慎ましやかな女教師。しかし誰にも知られないところで、水路を破壊して村を水浸しにしたり、放火したりとやりたい放題に歪んだ欲望を吐き出す。この屈折した女性像は、63年にジャンヌが出演したルイス・ブニュエル監督の『小間使いの日記』の主人公を思わせるものだ。
『不思議な世界』は〈リチャード・レスターの~〉とタイトルにもある様に、ビートルズ映画『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! 』『HELP! 四人はアイドル』で有名な彼の監督作品。このブラックなコメディの味わいは、やはりモンティ・パイソンのお国柄と言うべきか?
「栄光への賭け」は今年のロンドン・オリンピックに合わせたような、グッドタイミングな発売。主演のマイケル・クロフォードも、監督のマイケル・ウィナーもイギリス人。オリンピックを目指すマラソン・ランナーの物語だが、アメリカ代表役はライアン・オニール(実生活で当時の妻リー・テイラー=ヤングも出演)、チェコの代表ランナー役はフランスの歌手として有名なシャルル・アズナヴールという国際的なキャスティング。監督マイケル・ウィナーは70年代になると、チャールズ・ブロンソンという名コンビとなる俳優と出会い、その才能を開花させる。何と言っても二人の名前を今も語り継がせているのは、74年のコンビ4作目『狼よさらば』だ。法律の抜け道のせいで、野放しとなっている犯罪者(妻を殺され、娘は暴行される)を主人公が、自らの暴力行為で復讐するのは〈正義〉と呼べるのかという問題点を突きつけた問題作。その設定は、最近ではジェラルド・バトラー製作、主演の『完全なる報復』にも生かされて、その影響の大きさを感じさせたのだった。ポール・カージーという同じ主人公で、2作目『ロサンゼルス』3作目『スーパー・マグナム』という、いわゆる〈デス・ウィッシュ〉シリーズを誕生させる。また、6月のリクエスト・ライブラリー発売のラインナップにも載っている『メカニック』(コンビ2作目)は、最近ジェイソン・ステイサムでリメイクされた二人の代表作のひとつ。ステイサム版の公開時期に見比べたかった希望がようやく叶う。
リメイクと言えば1967年の『悪いことしましョ!』も2000年にブレンダン・フレイザーとエリザベス・ハーレーでリメイクされているコメディだ。主演のピーター・クックとダドリー・ムーアは『不思議な世界』にも出演のコンビだ。ダドリーは俳優と共にミュージシャンとしても知られ、この映画の冒頭にも60年代のサウンドを奏でている。70年代後半にハリウッドに移り『ファール・プレイ』『10』『ミスター・アーサー』とヒットを連発する。しかし84年のダドリーの傑作コメディ『殺したいほど愛されて』は未だDVD化になっていない。これって製作は20世紀フォックスでしょ、ここは第6弾でリストアップされることに期待するしかないでしょう。
発売全作品には触れられないが『コンラック先生』だけは漏らすことが出来ない。教育者パット・コンロイの自伝的小説の映画化で、アメリカ南部の人種差別問題を描いたヒューマン・ドラマだ。監督は社会派マーティン・リット(サリー・フィールドがオスカーを獲得した『ノーマ・レイ』が代表作だろう)。アンジェリーナ・ジョリーがジョン・ボイトの娘であることの不思議さばかりが面白可笑しく語られがちだが、本当の映画ファンであるなら、70年代のジョン・ボイトがいかに素晴らしい活躍をしたかを知っていなくては話にならない。69年の『真夜中のカーボーイ』72年『オデッサ・ファイル』、74年の本作、78年『帰郷』(オスカー受賞)、79年『チャンプ』という見事な作品群だ!
他にもアラン・パーカー監督の、日系人たちの戦争時の悲劇を描いた『愛と哀しみの旅路』、ジョン・ミリアス監督『デリンジャー』(遅い!ジョニー・デップ の『パブリック・エネミー』公開の時に発売しなけりゃ!)、マイケル・マンの『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』と魅力的な発売予定のリクエスト・ライブラリーから目が離せない!!