長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!
なにっ! DJハーヴィーのオフィシャル・ミックスが出たっ!? それは事件だっ!! ……ということで、今回はリアルに伝説の男・DJハーヴィーの16年ぶり(!)となるミックスCD『Xland Records Presents Xmix 01 DJ Harvey』のリリースを祝うのだ。この祭りにハウスもテクノも関係ない!というか、テクノ好きも巻き込んで2000年代初頭に全世界的に盛り上がったディスコ・ダブの元祖的存在なので、警察的にも無視できないのだ!
ハーヴィーがどれくらい伝説なのかと言えば、90年代初頭にロンドンで始めたレジデント・パーティー〈Moist〉ではゲストにハウス界の伝説中の伝説、ラリー・レヴァンを招聘し、かつ常連客にイジャット・ボーイズにフェイズ・アクションなど後のニュー・ハウスの中核となる連中がいたというスゴさ。そしてUKを代表する大箱クラブ、ミニストリー・オブ・サウンドのレジデントとなり(この時にリリースしたのが96年のオフィシャル・ミックスとなる『Ministry Of Sound - Late Night Sessions Vol.1 (Mixed By DJ Harvey)』)、2000年代にはLAへ移住。2007年にはNYのディスコ・ダブ・チーム、ラブンタグとのユニット=マップ・オブ・アフリカでサイケデリック&バレアリック・ロックを、2011年にはロクスソルス名義の『Locussolus』でよりフロア仕様なバレアリック・ハウスをリリースする現役バリバリぶり。まさに現在進行形の伝説なのである。
また、90~2000年代におけるクラブ・シーンの隆盛時にさまざまな大物が来日するなか、2002年の来日以降はまったく日本に来る気配がなかったのも伝説にハクをつけていた。そして奇跡と言われた2010年の再来日——この時は大阪でのプレイを観に行ったのだが、まさか深夜2時過ぎに30分近く店外で並ばされたり、入ったら入ったで異常な混雑ぶりで踊る前に自分のスペースを確保するのに四苦八苦したのが記憶に残る。その後はコンスタントに来日を続け、2011年にはクラブ系フェス〈Freaks〉に夏、そして年越し(しかも警察的には大興奮の、プロレス/格闘技の聖地・ディファ有明で!)と2度も出演する大サービスぶり。今回の16年ぶりとなるミックスCDは、その〈Freaks〉改め〈Xland〉のレーベルからのリリースなのである。
これだけの大御所が16年ぶりにミックスを出すというと、普通は集大成やらキャリアの深みを見せつけるところなのだろうが、さすが現役バリバリのハーヴィー、全トラックが2011~12年にリリースされた最新チューンばかり! しかもロクスソルス“I Want It”の未発表インスト・ヴァージョンとか、弟子筋のイジャット・ボーイズや日本のディスコ・ダブを代表する一人のDJ KENT(FORCE OF NATURE)のユニット=The Backwoodsによるリミックスとかはまだマシで、あとは相当コアなリスナーでも知らないレヴェルのアーティストだったりする。
しかし、クリック・ハウス界で著名なグリンプスやジェイ・ヘイズなどがリリースするテック・ハウス寄りのレーベル=レフトルームからの音源や、そのレフトルームを主宰するマット・トルフレイとユニットを組み、もともとはジェイ・へイズのレーベルからデビューしたインセクことクリス・シルヴェスター、あの2004年のWIREにも出演したレゴウェルトなど、非常にクリック~テック・ハウス的トラックがチョイスされていて、冒頭に思いっきりブチ上げるテラー・トレイン“Time Out”以外は全体のトーンもディスコ・ダブの淡白テック・ハウス味な感じで統一されていて、実はテクノ好きにこそしっくりくる内容だと思う。
このミックスCDや、あとラリー・レヴァンともツアーを回ったこともあり、現在最強のハウス・パーティーである〈Body & Soul〉のレジデントの一角を担う巨匠、フランソワKがいまではすっかりテクノ的なDJだったりするのを見ると、ハウスもテクノもすでに境界なんてなくなっていることを改めて感じるのだ。そして、こんな偉大な男を終身名誉総裁に指名したタワレコ新宿店も、受けて立ったハーヴィーも、カッコ良くて惚れるわー。
PROFILE/石田靖博
クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラブ・ミュージックのバイイングを担当。現在は、ある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→初めて〈METAMORPHOSE〉へ行きました。陽の光が漏れるなかで観るムーディーマン(サラサラのロングヘア)、期待通りの牧歌ディスコだったリンドストロームと、良い想い出多し。なかでも警察的にいちばん引っ掛かったのがダレン・エマーソン&ティム・デラックスの仲良しタッグの際、オービタルの名曲“Chime”をサンプリングしたこれまた名曲、ジョーイ・ベルトラム“Energy Flash”をダレンがプレイした時に、ダレンとオービタル兄が抱き合って喜んでいたことでした。そしてPerfumeの武道館が最高すぎていまも虚脱状態です。