父子の絆とハワイアンの誇り
ジョージ・クルーニーの主演映画『ファミリー・ツリー』は、母が事故で脳死状態に陥った父子の絆を描いた作品で、全編ハワイで撮影された。随所でハワイの神秘的であり、雄大でもある自然が映し出されており、ストーリーと共に見どころのひとつになっている。
そんな映画を彩る音楽は、もちろんハワイアン。ハワイアンと言っても、ハワイにもさまざまな音楽がある。その多彩な音楽のなかで、アレクサンダー・ペイン監督が選んだのはスラック・キー・ギターだった。彼自身がサントラに寄せたライナー・ノーツによれば、ロケ地探しをしていた時に車内で聴いたギャビー・パヒヌイの演奏に戦慄が走り、それでスラック・キー・ギターの楽曲だけで構成しようと考えたという。
ギャビー・パヒヌイは、伝説のギタリスト。監督のインスピレーションになっただけに劇中でも多く使われている。
ハワイには独自の伝統文化が多くある。そのなかでスラック・キー・ギターは、ハワイアンだからこそ演奏できる誇りでもある。メキシコからの労働者によってハワイにもたらされたギターをチューニング方法がわからず、自己流で、自分が気持ちいいと感じる音に適当に合わせて弾くようになったのがその原点と言われている。人々はギターに夢中になり、腕に磨きをかけていったが、演奏するのは家族の前のみ。独自のチューニングは、家族にしか明かさない秘伝のワザとなっていった。
そんな歴史があるので、スラック・キー・ギターは知る人ぞ知る存在だった。それを広く世界に広めた功労者がギャビー・ハピヌイ。60年代~70年代にかけて起きた伝統文化復興の活動、ハワイアン・ルネッサンスの中心的存在で、スラック・キー・ギターを惜しげもなく観客の前で演奏したことでハワイアンの意識を大きく変えた。
サントラには彼の名演奏のほかに同世代のレジェンド、レイ・カーネ、サニー・チリングワースをはじめ、ケオラ・ビーマー、マカナ、ジェフ・ピーターソンといった新旧ギタリストの楽曲、さらに甘いファルセット・ヴォイスで歌う歌姫、レナ・マシャードの名曲《マム》も収録されている。
スラック・キー・ギターの高音の涼やかな音色は、ハワイにそよぐ爽やかな潮風を運び、太陽の光を反射してキラキラと輝く美しい海の光景を連想させる。
映画を観終わった時になぜこの映画にスラック・キー・ギターが選ばれたのかより深く理解できる。ハワイアンの誇りがもうひとつの大切なテーマだからだ。
映画『ファミリー・ツリー』
監督・脚本:アレクサンダー・ペイン
原作:カウイ・ハート・ヘミングス
出演:ジョージ・クルーニー/シャイリーン・ウッドリー/アマラ・ミラー/他
配給:20世紀フォックス映画(2011年 アメリカ)
◎5/18(金)よりTOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー
http://movies.foxjapan.com/familytree/
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